熊沢誠さんが講演会で労働組合のあり方問う「組合は労働者の切実なニーズに応えているか?」
徹底した現場主義からの労働研究で知られる、甲南大学名誉教授・熊沢誠さんの講演会が2023年12月8日、東京都千代田区の明治大学駿河台キャンパスで開かれた。約80人が参加し、熊沢さんは「日本の労働組合運動再生の課題」などについて語った。 主催したのは明治大学国際労働研究所。現在85歳の熊沢さんは現場主義の立場から時々の課題を提起。労働組合を叱咤激励し続けてきた。『格差社会ニッポンで働くということ』『労働組合運動とはなにか』(ともに岩波書店)などの著書があり、23年9月には『イギリス炭鉱ストライキの群像 新自由主義と闘う労働運動のレジェンド』(旬報社)を出版した。 「いまの労働組合は労働者の切実なニーズに応えているか? 思想・行動・主体構築の課題」と題された講演では、まず、現在の日本の労働状況について触れ、日本の労働者が①約60%の正社員②約40%の非正規労働者の二つに分けられ、それぞれに「しんどさ」があることを指摘。「正社員は心身ともに疲弊している。競争と選別の中の重いノルマにより長時間労働となり、パワハラの頻発でメンタル危機に陥っている。一方、非正規労働者は『エッセンシャル』な仕事をしている人が多く、キャリアの展開があまりないまま下積み仕事を続け、低賃金で雇用も不安定だ。貧困層が非正規労働者を中心に累積している」などと述べた。 結果として、格差社会が進行しているとしたうえで、熊沢さんは「こうした状況の最大の背景、日本を日本たらしめているものは、労働組合の弱さだ」と強調した。 講演では次に「主流派の労働組合である、企業別・正社員組合の問題点」を取り上げ、①パート、アルバイト、派遣など非正規労働者の疎隔②一部の「精鋭」従業員の優遇と、雇用保障や昇給の不安定な多くの普通の従業員の分化があり、組合がこの分化を当然視してきたこと③徹底したストライキ離れ、の3点が指摘された。 ②に関連しては、1970年代以降に浸透していった日本的能力主義管理へのチェックを組合が放棄した結果、能力主義管理によって人減らしの中の競争と選別が激しくなり、労働条件の決定が個人処遇化。パワハラ・長時間労働・心身の消耗などの個人的受難は「個人の責任」とされ、組合は関わらないという対応が取られるようになった、との説明があった。