国内初導入のEUV露光装置 その仕組みと革新性
「史上最も精密な機械」とも言われる半導体製造装置の搬入・設置作業が、国内で初めて始まった。最先端半導体の生産を目指すラピダスは18日、北海道千歳市で建設中の生産拠点「IIM-1」にて、EUV(極端紫外線)露光装置の設置作業を開始。25年4月に試作ラインの稼働を予定する。設置作業開始を記念しての式典も同日、新千歳空港ポルトムホール(北海道千歳市)で行われた。 【関連写真】EUV露光装置の組み立ての様子(出典:ASML) そこで、今回はEUV露光装置について解説する。 露光装置で回路を書き込む EUV露光装置は現在、最先端半導体の製造のために必要不可欠な装置。半導体の論理設計の核となる集積回路を書き込む「フォトリソグラフィー」と呼ばれる工程で使われる。 半導体製造工程は、ウエハーというシリコンなどでできた円板に集積回路を焼き付ける「前工程」とウエハーをチップごとに切り分け、チップを保護し電極をつなぐ「後工程」に分けられる。前工程において、光を利用して行うのがフォトリソグラフィーだ。どのような回路を形成するのかは半導体の種類、性能を根本的に規定するため、それを物理的に実行するフォトリソグラフィーは非常に重要だ。 具体的には、光を出す露光装置に加え、透明な板に光を遮断する膜で回路を描いた「フォトマスク」と、ウエハーに塗る「フォトレジスト」という薬剤を使う。露光装置の光をフォトマスク越しにウエハーに当てると、回路の形状に対応してフォトレジストの光の当たった部分が化学反応を起こす。化学反応によって溶け出した部分を「エッチング」という工程で取り除けば、ウエハーに回路が形成される。 EUVは短波長で回路線幅の微細化を実現 一般的に、半導体の回路線幅は狭ければ狭いほど高密度の集積回路になり、計算能力など性能が向上する。そのため、半導体の進歩は回路線幅の微細化がリードしてきたといってよい。露光装置の光の波長は短ければ短いほど回路線幅が狭くなるので、露光装置の進化は半導体の進化に直結する。 EUVは現在露光装置に使用する中で最も短い13.5ナノメートルの波長を持つ。対して、従来の露光装置で用いられるフッ化アルゴン(ArF)線は193ナノメートル。回路線幅7ナノメートル以降の先端半導体製造はEUVを用いなければ困難になっていた。 高度な技術でASMLが市場を独占 EUV露光装置の製造はオランダのASMLが独占状態。その理由は装置の技術的な精密さによる。EUVを露光装置として利用するには、光源から高出力のEUVを安定的・長期的に出し続けなければならず、まずそこに技術的な課題がある。また、短波長の光は空気やレンズに吸収されやすいので、装置内を真空に保ち、精度の高い反射鏡技術によりできるだけ吸収を防ぐ必要がある。それとともにフォトレジストやフォトマスクの技術的な向上も要求される。これらを関連企業との連携によって実現したASMLは、現在露光装置メーカーで世界の先頭を走ることができている。 国内メーカーでは、光学系を扱うニコンやキヤノンも露光装置を手掛け、かつては市場を席巻していた。しかし、EUV露光装置の製造には至れず、最先端分野では現在ASMLの後塵に拝している。 国産半導体復活に必要不可欠なピース 現在、EUV露光装置を量産用に使用しているのは、受託製造で世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)をはじめ、韓サムスン電子や米インテルといった世界のトップ企業。 今回搬入・設置を開始したラピダスは、これらの企業に並ぶ最先端半導体の製造を目指している。ラピダスが量産目標にかかげるのは回路線幅2ナノメートルの半導体。TSMCも来年に初めて量産を開始するほどのもので、ラピダスは2027年の量産を目指す。 2ナノメートル半導体という目標にとって必要不可欠だったEUV露光装置の設置。24年の終わりが近づく中、ラピダスは本格的なスタート地点に立った。
電波新聞社