『ラストマイル』が切り開く“テレビドラマの映画化” 『踊る大捜査線』との違いとは?
『ラストマイル』がとても“幸せ”な映画である理由
塚原、野木、新井の新作なら間違いないというブランドイメージが作り手と受け手の間で共有されているからこそ実現できた、とても幸せな映画である。 テレビドラマの映画化でありながら、クリエイターファーストのオリジナルストーリーが展開できたという意味でも『ラストマイル』は画期的で、このシェアード・ユニバースという方法論は他のテレビドラマでも展開されてほしいと願っている。 そして、物語としても本作は、良質の社会派エンターテインメントに仕上がっていた。何より「通販会社から届く荷物が爆弾だったら?」というアイデアが秀逸である。誰もがネット通販を利用する現代において、人ごとではいられない犯罪で、とても現代的な恐怖を描いていると感じた。同時に爆弾事件を入り口にして、通販会社、物流倉庫、運送会社、消費者を取り巻く経済構造の背後にある社会の闇を紐解いていく手腕は実に見事で、さすが塚原・野木・新井のチームだと感心した。 筆者は、いつ爆発するかわからない荷物を運ぶことになる佐野運送の佐野昭(火野正平)、亘(宇野祥平)親子に感情移入して本作を観ていたのだが、思い出したのは『あなたのブツが、ここに』という2022年にNHKで放送されたドラマだ。本作はシングルマザーのキャバ嬢が、2020年の新型コロナウイルスの世界的流行で仕事がなくなったことをきっかけに宅配ドライバーに転職する話で、コロナ禍の運送会社の苦しみを描いたドラマだった。どちらの作品も社会の皺寄せが弱い存在に向かう残酷な社会構造を描いている。『あなたのブツが、ここに』がそうだったように、『ラストマイル』が一番描きたかったのは、末端にいるエッセンシャルワーカーの辛さだったのかもしれない。
成馬零一