『ラストマイル』が切り開く“テレビドラマの映画化” 『踊る大捜査線』との違いとは?
8月23日に劇場公開された映画『ラストマイル』が好調だ。公開10日間で観客動員数は152万人を超え、興行収入21.5億円を突破している。 【写真】岡田将生の自撮りによる『ラストマイル』チームオフショット 本作は、世界最大のショッピングサイト「DAILY FAST」の日本支社・西武蔵野ロジスティックスセンターを舞台に、ブラックフライデー前夜に配送された荷物に爆弾が仕掛けられたことを発端とする連続爆破事件の謎に、センター長の舟渡エレナ(満島ひかり)とチーフマネージャーの梨本孔(岡田将生)が立ち向かうクライムサスペンス。 監督は塚原あゆ子。脚本は野木亜紀子。プロデューサーは新井順子。3人は2018年に日本における不自然死の謎を解明するUDIラボ(不自然死究明研究所)の活躍を描いた『アンナチュラル』(TBS系)と、2020年に事件の初動捜査を担当する4機捜(第4機動捜査隊)を主人公にした『MIU404』(TBS系)というテレビドラマを手掛けたチームだ。 この2作は1話完結の事件もので、社会的テーマをサスペンスを通して描く手腕と魅力的なキャラクターが評価され、ドラマファンから絶大な支持を受けた。今回の『ラストマイル』はシェアード・ユニバースと銘打たれており、『アンナチュラル』と『MIU404』と同じ世界観を共有する映画となっている。 そのため、UDIラボの法医解剖医・三澄ミコト(石原さとみ)や4機捜の伊吹藍(綾野剛)、志摩一未(星野源)といった刑事が劇中に登場する。元々『MIU404』にも『アンナチュラル』の登場人物が登場しており、2作の世界が繋がっていることは明示されていたのだが、『ラストマイル』は、この2作の間接的な続編だと言っても過言ではないだろう。 つまり本作は、テレビドラマを映画化した作品とも言え、前2作の人気を考えると、ヒットしたのは当然の結果だとも言える。 今や劇場アニメに継ぐヒットコンテンツとなっているテレビドラマの映画化だが、転機となったのは刑事ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)を映画化した1998年の『踊る大捜査線 THE MOVIE』だろう。 本作の成功以降、人気テレビドラマの映画化は定番となり、今ではビジネスモデルとして完全に定着している。『踊る大捜査線』の劇場版も計4作作られたが、同時に『踊る大捜査線』はサブキャラクターを主人公にしたスピンオフシリーズを、SPドラマや映画で展開しており、今年も室井慎次(柳葉敏郎)を主人公にした『室井慎次 破れざる者』、『室井慎次 生き続ける者』という2部作の映画の公開が予定されている。 一つの作品からサブキャラクターの物語を展開していった『踊る大捜査線』のメディア戦略はシェアード・ユニバースの先駆けと言えるが、キャラクターの物語を見せる方向に収斂していった『踊る大捜査線』に対し『アンナチュラル』チームのシェアード・ユニバースは、シリーズごとに作品が変わっていくのがユニークなところである。あくまで中心にあるのは野木亜紀子、塚原あゆ子、新井順子が作り上げる作品世界であり、題材が変わると物語は違う舞台に移っていく。 今回の『ラストマイル』も、興行的なことを考えるなら『アンナチュラル THE MOVIE』や『劇場版:MIU404』といった形で映画化する方が企画として無難だったのかもしれないが、オリジナル映画として本作を打ち出せたのは、それだけ前2作で積み上げてきた実績に対する信頼があるからだろう。