NTTデータがホテル事業に参入、睡眠解析に特化したカプセルホテル、その狙いと展望を聞いてきた
ユーザー体験を損なわない睡眠計測
このような段階を経て実現した今回のホテル事業への進出。ただし、開業するホテルは医療機関ではないため、提供される睡眠解析サービスはあくまでも客観的データの提供と解析にとどまる。 モニター参加者から聞いた感想について佐治氏はこう話す。「参加者からは、『今まで自分の睡眠が可視化されることはなかったので、睡眠解析データを見て寝る前のお酒を控えるようになった』といった声が聞かれ、行動変容につながっていることがわかります。行動変容が起こるとFitbitで計測するデータの数値にも変化が現れ、それがさらに行動変容につながっています。日常生活に関わるデータを取る際、食事の記録などはどうしてもユーザーに負担をかけてしまいますが、ホテルで睡眠データを計測する場合、ただ寝ていただくだけなのでユーザー体験を損なうことがありませんし、毎日計測することもできます」 ホテルの特徴は睡眠解析だけにとどまらない。スリープテックにフードテックを掛け合わせたサービスの提供も予定している。NTTデータの顧客である食品メーカーのサプリメントや飲料などを無料で提供し、簡易アンケートに答えてもらう宿泊プランや、これに「Fitbit Charge5」本体が付くプランも登場する見込みだ。
ホテル事業はテストフィールド
NTTデータにとって、新たな事業領域となるホテル事業。NTTデータとして今後、本格的にホテル事業に進出していく予定なのだろうか。横堀氏はこう語る。 「このホテルはFood & Wellness事業におけるデータ蓄積の手段の一つ。ホテルであり、BtoB向けの食品メーカーさんとのテストフィールドでもあります。そのため、睡眠計測やFitbitを使った体内リズム計測を行わない宿泊のみのプランも用意しますが、宿泊のみの方が割高になる予定です」 飲食だけでなく、照明をはじめとした安眠環境に関わるサービスにもつなげていきたい考えだ。 ホテルは同社が目指すFood & Wellnessプラットフォーム実現のための手段ではあるが、ホテル事業への本気度は高い。 「今後は、グループ企業のビルなどを活用しての拡大も視野にいれて検討していく予定です。データを収集するにはホテルの稼働率を上げることが重要になるため、高い稼働率が見込める首都圏が中心になるでしょう」 その最初の一歩となる品川の顧客ターゲットとして想定しているのは出張で訪れるビジネスマンや観光客だ。 「旅館業法では共同浴室や共同トイレは男女別に設ける必要があります。しかし、品川の店舗で男女別のトイレやシャワールームをつくると40床しか確保できず、収益が確保できません。場所柄、男性客の方が多く見込まれることもあり、70床の男性限定の施設としました。今後、スペースが確保できれば女性エリアを設けたいと考えています」 さらに横堀氏はホテル事業についてこう語った。「事業として成り立つことが大切ですが、多くの方が睡眠負債を抱えるなど、睡眠が社会課題になっている中、睡眠解析サービスという事業を通して社会課題の解決を目指したいと考えています。ここで蓄積した(個人情報を含まない)睡眠データを企業や大学などに活用していただければ。将来的にこの事業が大きくなり、かつ次世代医療基盤法の改訂があるのであれば、医療との連携も行っていきたいですね。ナインアワーズは外国人の方に人気が高いこともあり、ホテル開業のニュースには海外からの反響も大きく、注目されていることを感じます。将来的に広げていきたいと思っていますので、まずは品川の稼働率を上げていきたいです」 同社では、日本で熱を帯びつつあるウェルネスツーリズムについても「やりたい気持ちはある」と意欲的。他の事業者や自治体、デベロッパーと組むことも可能性のひとつとして示唆した。 睡眠計測というホテルでの新たな体験をユーザーの行動変容に繋げるとともに、社会課題を解決しようというNTTデータのホテル事業。既存の観光産業とはまったく異なる視点から生まれる新しいホテルのあり方は、開業後も注目を集めそうだ。 聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫 記事:フリーライター 吉田渓
トラベルボイス編集部