「簡単・手軽」が強調されがちな“家庭の低温調理”に潜む罠 ローストビーフやゆで鶏の「加熱不足」「表面だけ焼いて放置」が高める食中毒リスク
重要なのは「肉の中心部」が殺菌できるかどうか
一方のゆで鶏の料理法はどうか。 「市販鶏肉の汚染率調査から、3~9割はカンピロバクターに汚染されているとみられます。カンピロバクターは自然環境中にいるので、努力しても汚染ゼロにするのは困難です。肉の新鮮さとも関係ありません。 ゆで鶏の調理法については、肉の大きさによるので、何分ゆでるのがいいとは言えませんが、低温調理で必要な温度を一定時間維持するのは非常に難しく、自己流メニューはおしなべて加熱が足りないことが多い。重要なのは、牛肉でも鶏肉でも、肉の中心部が殺菌に至る温度で一定時間維持されることで、目安は中心部が63℃なら30分、70℃なら3分、75℃なら1分です」 肉の色から温度を推定するのは難しく、白くなったからといって加熱が十分とは限らない。低温調理の専用機器であれば、添付のレシピに記載されている分量と加熱時間を守ることが必須だ。一般の炊飯器を使って低温調理でローストビーフやゆで鶏を作るずぼらレシピも多数出ているが、炊飯器によって容量や性能などが異なるので、どの程度加熱されたかを把握するのは非常に難しい。一般的な鍋で湯煎などをする場合は、肉に刺して内部温度を測る「中心温度計」で実際に温度を測るといいという。中心温度計はホームセンターや日用品の通販サイトで、1500円程度で売られている。 しかし、飲食店のなかには「鶏の刺身」や「鶏のたたき」など、鶏の生肉を供する店があるが、なぜ可能なのか。 「決して安全とは言えません。鶏肉の生食文化がある鹿児島県では、独自に『生食用食鳥肉の衛生基準』をもち、食鳥処理や冷蔵などの方法を定めていますが、それでも食中毒リスクがあり、子供や高齢者、抵抗力の弱い人は生食を控えるべきとしています。実際に鹿児島でも食中毒は起きています。同県と宮崎県以外は、鶏肉の生食用の基準を持っておらず、他の地域では言わずもがなです。 カンピロバクターによる食中毒は、日本で起きる細菌性食中毒の中でもっとも多く、7割を占めます。それでも厚労省が鶏肉の生食を禁止していないのは、南九州の食文化とともに、カンピロバクターでほとんど死者は出ていないからという理由のようです。しかし、カンピロバクターに感染すると、後でギランバレー症候群という自己免疫疾患にかかることがあり、体に力が入らなくなって寝たきりになることもある。死なないから大丈夫と軽く見ないほうがいいです」
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