『恋わずらいのエリー』は少女漫画原作の活路となる? “松竹キラキラ映画”の変遷
ジャンルの今後を見つめ直した『恋わずらいのエリー』
さて、ここからが本題である。現在公開中の『恋わずらいのエリー』は、2015年から2020年にかけて連載された作品。つまり連載開始時に主人公と同じ高校1年生だった世代はすでに社会人になっており、完結時に高校生だった世代もみんな大学生になっている。そういった意味では賞味期限切れギリギリか、厳しく見積もればアウトとも捉えられる。ちなみに松竹と講談社『デザート』連載作品の組み合わせは『好きっていいなよ。』『モエカレはオレンジ色』『なのに、千輝くんが甘すぎる。』に続いて3年連続4作目。前2年の成功例を踏まえ、ジャンルの今後を見つめ直すためのゲームチェンジャーとしてあえて完結済みの作品を選んだようにも思えてならない。 作品の土台は現代の少女漫画のテンプレート通りである。ヒロインのエリー(原菜乃華)は従来の同ジャンルで頻繁に見られたようなあからさまに自己肯定感の低い少女ではなく、人付き合いは決して上手くはないが概ねポジティブな性格で根が真面目。そしてどこか拗らせた感じの変態的な趣味趣向を持ち合わせている。 対して相手役のオミくん(宮世琉弥)は、学校一のイケメンという定番でありつつ、心を許した相手にしか素を見せない。口が悪く、子どもじみた横柄な性格がありながら、あっという間にヒロインに心奪われて徹底的に甘えてかかるという、面倒でちょろいタイプだ。メインカップルのトーン自体は『千輝くん』と近いものがある。また、ヒロインとの出会いによってイケメンに変化のきっかけが与えられること以外、これといって恋愛に発展するに足るだけの決定的な出来事がないのも最近では珍しいことではないだろう。 ではどこで、実写映画として“魅せる”のか。それはやはりストーリーの運び方と、原作の扱い方、そして帰結点の見出し方といった脚色のテクニックに他ならない。参考までに、今作と同じようにコミックス全12巻で原作が完結していた『思い、思われ、ふり、ふられ』を例にしてみると、そこでは4人のメインキャラクターの心理模様を恋愛と成長の相互関係のもとで描写しながら、原作の“あらすじ”を一気に2時間弱の映画のなかに圧縮するような脚色が為されていた。対してこの『恋わずらいのエリー』は、原作の“要素”をかなり細かいところまで一度バラバラにほどいてから、基本的な筋書きに沿って再構築されている。むしろこれは、原作が完結しているからこそできるやり方ではないだろうか。