俳優デビュー4年目、市川雷蔵が「丸刈りになってまで…自分を大成させる跳躍台に」 1958年『炎上』市川崑監督
【映画デビュー70年 市川雷蔵のきらめき】(1) 八代目市川雷蔵が映画デビューして今年は70年になる。KADOKAWAでは27日から、「市川雷蔵映画祭 刹那のきらめき」という特集上映を行う。そこでこの映画祭を先取りして目玉となる作品を紹介する。 最初は「炎上」4K修復版から。「三島、崑、雷蔵、この異色のトリオが放つ本年度ベストワンを約束された文芸巨編」というのがうたい文句。 大映での俳優デビューから4年目。雷蔵は三島由紀夫が原作の同作に主演してようやく高い評価を得、スターの地位を確立する。キネマ旬報の主演男優賞、ブルーリボン主演男優賞などを獲得。大映では勝新太郎と並んで二枚看板となり、「カツライス」とニックネームをつけられ、ファンからは「雷さま」という愛称を贈られた。 京都の金閣寺に修行僧が放火して炎上させたという実際の事件を題材にしている。打診を受けた金閣寺からも映画化しないでくれとクレームが。京都の仏教界も猛反対。そして大映には撮影させないとまで言い出した。これに頭を抱えたのが社長の永田雅一。「もうやめよう」と市川崑を説得したそうだ。だが製作スタッフはやる気満々で、着々と建築家のふりをして金閣寺の内部を撮影したり実景を撮ったりして制作を進めており、後には引けなかった。 そして地道に寺側を説得。金閣寺を「驟閣寺」にし、映画のタイトルも変え、三島由紀夫原作というクレジットを入れることで結局粘り勝ち。 実はこの映画、最初は川口浩を主演にするつもりだった。川口の父で大映の重役・川口松太郎も大乗り気で、ニュースでも発表済み。ところが永田雅一から「いかん。他の者でやれ」という指令が。監督はわけもわからず、とっさに浮かんだのが「新・平家物語」(55年)でみた雷蔵だった。 すると今度は大映入りを強く推した撮影所所長や後援会、スタッフから吃音の修行僧では美剣士のイメージが壊れると反対の大合唱。しかしこれも雷蔵の「やりまひょか」の一言で決まった。実は雷蔵も新しい役に挑戦したいと思っており、渡りに船だったのだ。 雷蔵は「丸刈りになってまで宗教学生をあえてやる気になったのは、自分を大成させる跳躍台にしたかったからです」と語っている。相撲好きだった雷蔵はクランクイン前に若乃花、千代の山、栃錦という3横綱による断髪式までしたというから決意の強さが表れている。 (望月苑巳)
■八代目市川雷蔵(はちだいめ・いちかわ・らいぞう) 俳優。1931年8月29日生まれ、京都市出身。60年代には勝新太郎とともに大映の二枚看板(カツライス)として活躍した。69年7月17日に死去。37歳の若さだった。