球宴でわずか「5」と奪三振ショーが減った理由は直球勝負美学の弊害なのか
多くのピッチャーがオールスターでは「直球勝負」を口にする。これは、近年に始まったわけではないが、直球勝負の美学が、ある程度チームの勝敗は度外視されているオールスターには存在している。だが、100パーセント直球が来ることがわかっていれば、打者が断然有利になる。 2被弾してしまった松坂は、試合後、こんな談話を残していた。 「(松坂との対戦希望の打者が多いと)事前に聞いて、僕も、それにのっかって、直球勝負、力勝負と、話しました。緩いボールを投げ辛い雰囲気になってしまいましたね」 秋山にインサイドの変化球をうまく拾われ、ライトスタンドに先頭打者アーチを浴び、森にも137キロのカットボールを痛打された。ソフトバンクの柳田だけは、137キロのカットボールでスイングアウトにとったが、130キロ台のストレート系の小さな変化だけを使っての投球の組み立てでは、全パの強力な面々を押さえ込むには無理があったのかもしれない。 交流戦途中に背筋を痛め、その復帰マウンドがオールスターでのぶっつけ本番になるという厳しい状況があったとはいえ、この日の投球は2018年型の松坂のそれではなかった。直球勝負への幻想が裏目に出た。 全パの先発、西武・菊池も、まだ故障明けで無理をしなかったのか、150キロを超えてくる直球は影を潜めた。130キロ台の直球が目立って三振はゼロ。松坂の後を受けた全セ2番手の阪神・メッセンジャーもセでは、3位となる90奪三振を誇っているが、この日は、2回を投げて無失点にまとめながらも、直球主体で三振はひとつも取れなかった。 セでの三振奪取率は8.46で巨人・菅野、巨人・山口に次ぐ3位につけている横浜DeNAの左腕、東は、8回に西武の現本塁打王、山川に、チェンジアップを意識させておいて144キロの直球でスイングアウトを取った。新人らしく他所向きのピッチングではなく自らの持ち味を存分に生かして奪った三振だった。直球勝負の美学にこだわらず「自分の形」に徹した結果だろう。 直球vsフルスイングの勝負が京セラドームを感動させた対決もあった。3回のオリックスの19歳、山本と、筒香との直球一本勝負は見ごたえがあった。「筒香さんと対決したい」と語っていた山本は、全球直球で勝負。それもすべて150キロ台である。 6球もファウルしながら、その豪球に徐々にタイミングを合わせた筒香は、9球目、151キロの直球をついに仕留めた。左中間スタンドの最前列に入る打球を見て山本は思わず苦笑いを浮かべた。 「凄いボールでした」。打った筒香が、試合後、そうエールを送るほどの名勝負だった。 ラジオで、この試合を解説した阪神SEAで、球宴10度出場、MVP3度受賞の掛布雅之氏は、「ストレートの質の違い。150キロのボールでも空振りが取れず、ファウルになってバットに当たるのは、ボールにスピンが少ないことと、初速ほど終速でボールが来ていない影響かもしれない」と、山本が三振を奪えなかった理由を分析していた。1971年に9連続三振の大記録を作った江夏氏、1984年に8連続三振で続いた江川氏に共通するのは、「ボールにスピンがかかり、ストレートを狙っていてもボールの下を振ってしまう」(掛布氏)という直球の質があったという。