日銀に「円安対策」求めるのは筋違い 為替市場に介入の憶測も見込み立たず 財政で家計負担を緩和すべきだ
【森永康平の経済闘論】 日本の為替市場が慌ただしい。4月29日に円安が急加速し、一時34年ぶりに1ドル=160円台を記録した。しかし、日本時間の午後に入ると一転して1ドル=154円台まで円高方向に変動した。 【表】「4人家族で1カ月に必要な金額」京都総評の試算と内訳 この急激な変動を受けて、市場では政府・日銀が市場介入に踏み切ったのではないかとの憶測が出たが、財務省の神田真人財務官は記者の問いかけに対して「私から介入の有無について申し上げることはない」と述べた。 しかし、過去に介入があったときの値動きや、日銀が5月1日に公表した「日銀当座預金増減要因と金融調節」のデータを見る限り、どうやら今回も円買い介入が行われたと考えるのが自然であり、それも5兆円超という大きな規模であったと予想される。2022年10月21日に実施した5・6兆円の円買い介入が1日としての過去最大規模であったことを考えると、今回の変動が介入によるものであるとするならば、かなり思い切ったものだということになる。 為替相場の変動要因はいくつもあるが、ドル円相場についていえば、日米間の金利差が大きな要因となっている。日銀は3月の金融政策決定会合において、マイナス金利政策など、いわゆる「異次元の金融緩和」と呼ばれるさまざまな緩和策をやめて、通常の金融緩和へと切り替えた。しかし、4月の金融政策決定会合では現状維持を決めた。 米国では4月の連邦公開市場委員会(FOMC)において、6会合連続の金利据え置きを決定した。会合後の記者会見では米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、インフレがいまだに落ち着きを見せないことに言及し、従来の想定よりもインフレの粘着性が高いことに懸念を示した。 また、これまでとは異なり、金利がピークにあることも、年内に利下げが行われる可能性を示すこともなかった。 そもそも24年が始まった時点では、FRBは1年間で6回の利下げを行うと市場は予想していたが、その回数が徐々に減少していき、ついこの間までは年に3回となっていたが、いまでは11月に1度だけ利下げをするというシナリオがコンセンサスとなっている。 堅調な米国経済を背景に利下げ期待が後退するなかで、円安が止まる見込みが立たない。円安による物価高が国民の不満を高め、日銀の緩和姿勢への批判も強まっているが、為替水準のために金融政策を変化させるのは従来の政策目標から外れてしまう。いまこそ財政で家計負担を緩和すべき時期なのだ。
森永康平(もりなが こうへい) 経済アナリスト。1985年生まれ、運用会社や証券会社で日本の中小型株のアナリストや新興国市場のストラテジストを担当。金融教育ベンチャーのマネネを創業し、CEOを務める。アマチュアで格闘技の試合にも出場している。著書に父、森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など。