雨に翻弄された101年目のル・マン。燃料ギリギリ! 50号車フェラーリが優勝。トヨタ7号車は最後尾から追い上げも届かず2位|ル・マン24時間:フィニッシュ
2024年のル・マン24時間レースがフィニッシュ。50号車フェラーリ(アントニオ・フオコ、ミゲル・モリーナ、ニクラス・ニールセン)が優勝した。7号車トヨタ(ホセ・マリア・ロペス、小林可夢偉、ニック・デ・フリーズ)は、最後尾グリッドから追い上げを見せたが、14秒勝利には届かなかった。 【リザルト】2024年ル・マン24時間レース決勝結果 レースの最後6時間は、セーフティカー先導でスタートした。27号車Heart of Racingのアストンマーティンが上下逆さまになるクラッシュを喫したことでセーフティカーが出動し、そのセーフティカー先導中にクラッシュやトラブルが相次いだのだ。 レースが再開されたのは、残り時間が5時間27分となった頃。この時点で上位10台が同一ラップにあり、再開直後から激しいバトルが繰り広げられた。 先頭を行くのはアール・バンバーがドライブするキャデラックの2号車。5号車ポルシェ(フレデリック・マコウィッキ)、83号車AFコルセのフェラーリ(ロバート・シュバルツマン)という隊列だった。ここから今年のル・マン24時間が始まった……と言っても過言ではない大激戦状態だった。 ここで魅せたのが7号車トヨタの小林可夢偉だった。小林はレコードライン以外はまだ濡れているのもお構いなしに、前を行くフェラーリ2台を猛烈にプッシュ。このバトルの後方にいた311号車キャデラックは、インディアナポリスでコントロールを失い、高速でバリアにクラッシュしてしまう。 小林はフェラーリ勢をオーバーテイクするには至らず、次のチャンスを狙うかと思われたが、突如スローダウン。8号車トヨタ、6号車ポルシェに立て続けに先行されてしまう。どうもトラブルに見舞われたようで、上位5台からは徐々に遅れていった。ただ走行しながら問題に対処することができたようで、7号車トヨタは次第にペースを戻した。 先頭の2号車キャデラックがピットインすると、5号車ポルシェが首位に。ただアントニオ・フオッコがドライブする50号車フェラーリが豪快なオーバーテイクを決め、首位に立った。 この2号車キャデラックとその他の上位勢は、ピットストップのタイミングに差があるため、最終盤を迎えるまでどちらが有利かは分からない……そんな状況だった。 残り4時間20分になろうかというところで、6号車ポルシェを追いかけていた7号車トヨタの小林は、左フロントタイヤのパンクを訴えて緊急ピットイン。これで7号車トヨタは、ピットストップのタイミングが揃っていた上位勢とは異なる戦略を採ることを強いられた。 その直後、フルコースイエローが宣言され、解除された一瞬の隙を突き、8号車トヨタのセバスチャン・ブエミが、83号車フェラーリをオーバーテイク完了。この時点で2番手となった。 残り4時間を切ろうかというところで、上位勢が立て続けにピットイン。ここで83号車のフェラーリは、右フロントから激しく煙を上げた。電気的な問題も抱えていたようで、ドライバーのシュバルツマンはコクピットから降り、メカニックも感電を防ぐためのゴム手袋を装着……結局リタイアを強いられた。 残り3時間20分という頃、7号車トヨタにまたしても不運。再びタイヤにスローパンクチャーの兆候があることが確認されたため、予定外のピットストップを強いられることになり、実質的なポジションを落とした。 そしてその直後、サーキットにはまたしても雨雲が襲来。コースを濡らし始めるが、ウエットタイヤに履き替えるほど強まることはなく、各車ともドライタイヤのまま走行を続けた。 しかし上位を走るフェラーリの2台、50号車と51号車が技術規定違反の疑いで審議対象をなったことが発表された。もしかして何らかのペナルティかと緊張が走ったが、フェラーリにとっては幸運なことに、”叱責”処分を受けるだけで済んだ。 一旦は遠退いたように見えた雨雲だったが、残り2時間というところで本格的な雨粒がサーキットに落ちてきた。ここで賭けに出たのが2号車キャデラック。まだそれほど雨足が強まっていない段階でルーティンのピットストップを行ない、ウエットタイヤを装着した。 その後雨足が強まり、各車一斉にピットイン。ウエットタイヤに交換した。 この時、8号車トヨタは右フロントタイヤの交換に手間取りタイムロス。また50号車フェラーリは、ピットアウト時に他車の走行を妨害してしまった。 混乱は続いた。先頭を行く50号車フェラーリは、車両右側のドアが開いてしまう状況となった。また2番手を走っていた8号車トヨタは51号車フェラーリと接触してスピンし、6番手までポジションを落としてしまうことになった。なおこの接触については、51号車フェラーリに非があったとして、後に5秒加算ペナルティが科された。 雨が降るとトヨタ勢の速さが際立つようになり、7号車は51号車フェラーリをオーバーテイク。その後、レースコントロールはドアが開いたままになっている首位の50号車にピットインを命じたことで、7号車トヨタがついに首位に立つことになったが、ピットストップのタイミングの差により、再び50号車フェラーリが先頭に立ち、残り1時間を切ることになった。 この残り1時間というところで、首位50号車フェラーリと2番手7号車トヨタの差は35秒ほど。しかし50号車フェラーリはあと2回のピットストップを強いられるかもしれないと思われた一方で、7号車トヨタは燃料タンク半分の量だけ給油すれば、フィニッシュまで走り切れるはず……そんな状況だった。7号車トヨタの方が絶対的に有利な状況であるように見えた。 しかしホセ・マリア・ロペスが乗る7号車トヨタがスピン! 50号車フェラーリとの差が50秒ほどに開いてしまった。これにより、一体どちらが有利なのか、分からない状況となり、24時間レース最終盤を迎えた。 残り51分というところで、50号車フェラーリがピットインし、3番手でコースに復帰した。このままチェッカーまで走り切れるのか、あるいはほんの少しばかり足りないのか、まさにギリギリの状態だった。 残り42分のところで、首位7号車トヨタと、2番手51号車フェラーリの2台がピットイン。これが、両車とも最終ピットインである。これで再び、50号車フェラーリが首位に返り咲いた。 残り時間30分を切ると、サルト・サーキットにはまたも大雨が降り始める。雨足が強まったことで全体のペースが落ちたため、50号車フェラーリとしては、チェッカーまで給油せずに走り切れてしまう可能性が出てきた。 50号車フェラーリが311周目、最終ラップに入った時には、残りエネルギー残量は9%と表示されていた。燃料がもてば優勝、足りなければ敗北……そういう状況だった。 最終的にエネルギー残量は2%。50号車フェラーリがギリギリの状態で逃げ切って、トップチェッカー。昨年に続き、フェラーリが2年連続でル・マン24時間レースを制した。 2位にはトヨタ7号車。予選でのタイム抹消によりクラス最後尾からのスタートを強いられ、そこから追い上げたものの、最終的には14.221秒及ばなかった。3位に51号車フェラーリ、4位に6号車ポルシェ、5位に8号車トヨタが入った。ハイパーカークラスは、実に9台が同一ラップという、近年稀に見る大接戦だった。 LMP2クラスは22号車ユナイテッド・オートスポーツが優勝。LMGT3クラスは、91号車マンタイEMAのポルシェ(ヤッサー・シャヒン、モリス・シュリンク、リチャード・リエツ)がクラス優勝を果たした。 この他日本人ドライバーが乗るマシンは、777号車D'Station Racing(星野敏)がLMGT3クラス9位、87号車Akkodis ASP Team(木村武史)がクラス10位、82号車TFスポーツ(小泉洋史)がクラス11位。また37号車クール・レーシング(宮田莉朋)がLMP2クラス12位となった。LMGT3クラスに出走していた95号車ユナイテッド・モータースポーツ(佐藤万璃音、濱口弘)はリタイアだった。
田中健一