国立新美術館「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」をご案内【市川紗椰の週末アートのトビラ】
今月の展覧会は…「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」
市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第17回は国立新美術館で開催中の「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」を訪問しました。 【写真】「イヴ・サンローラン展」華やかな会場風景 『イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル』展示風景 国立新美術館 2023年 ©Musée Yves Saint Laurent Paris Chapter4「想像上の旅」。世界の民族衣装やテキスタイルからインスピレーションを受けた作品を展示。精緻な職人技や美しいテキスタイルは時間を忘れて眺めてしまう。華やかなルックのなかに凜と立つ、黒のアンサンブル(左・1970年)に惹かれました。 12のチャプターに分かれた展示室に、ルック、アクセサリー、デザイン画、写真など262点のアーカイブが。
“自分のスタイル”についても意識が高まる世界的デザイナーの回顧展
帰り道、今まで自分のワードローブにはなかった服を買ってみたくなるかもしれません。国立新美術館『イヴ・サンローラン展』で、ファッションの持つそんな力を実感しました。 1950年代から半世紀以上にわたり活動を続けてきたサンローラン、彼の手がけた100体以上のオートクチュールコレクションのルックが一堂に。制作年代の時系列よりも、インスピレーションの源に着目した構成のため、サンローランの描く女性像のタイムレスなあり方が際立って感じられます。ファッションから伝わってくるのは、アートの世界よりもぐっとリアルに“自分自身になじむ感じ”。たとえば、女性服として定着しているテーラードスーツや、今のトレンドのシースルードレスは、どちらも彼が40年以上前に発表していたもの。今となっては見慣れたデザインですが、オリジナルは本当に、強い! その完成度の高さに思わず語彙力を失います。そして、世界の歴史や文化を参照した華やかなドレスは、非日常的なのに「着たら絶対にきれいに見えるだろうな」と確信が持てるシルエット。見とれながらも自然に「これ好き、これ着たい」という気持ちがわいてわくわく。友達と訪れたら、感想を語り合って盛り上がりそう。 新鮮だったのは、展覧会を通じて「ちゃんとした服を着よう。作りのいいものを、きちんとアイロンして着よう」と思えたこと。自己主張や奇抜さよりも、あくまで女性をエレガントに見せることを追求したサンローランの服には、時を超えて“私自身のスタイル”に響いてくる説得力がありました。ファッションは、夢のような世界だけれど日常と地続きで、だからこそ日常を少しステップアップさせてくれる。私は、上質なベルベットの服が無性に欲しくなって、会場を後にしました。