<南シナ海>中国の主張は「国際海洋法と合致しない」 米報告書が持つ意味
米報道官の苦しい説明
この報告書をもって米国の方針が変わったと言えるか微妙です。報告書の目的は、「国家による海洋に関する主張や境界を精査(examine)し、国際法との整合性を評価(assess)することである」「この検討は、その中で取り上げられていることに関する米国政府の見解(view)を示すが、主張されていることを受け入れることを必ずしも反映しない」と記されています。つまり、国際法に合致しているか否かの判断はするが、政治的に特定国の主張に加担するのではない、という意味でしょう。 しかし、米国政府として違法だと判断しておきながら、政治的には中立の態度を取れるでしょうか。12月10日の国務省における記者ブリーフでは、これまでの米国政府の「第三国間の領土紛争においていずれかの国に加担することはしない」という方針と一貫していないのではないかという質問が出ました。もっともだと思います。 これに対し、サキ報道官 は「これはただの報告書である、80も行った法的な検討の一つである、、、」と苦しげに答え(筆者注:他にも多くのケースについて法的検討が行われていることを言っているのでしょう)、その答えでは満足しない記者が、「しかし、この報告書は東南アジア諸国の利益に味方(favor)している」とたたみかけたので、同報道官は「それは非常にテクニカルなものであり、政治的なものでない(they are very technical, they’re not political)」とだけ述べ、後は従来からの第三国間の領土紛争に介入しないという米国政府の方針は不変であることを繰り返すのがやっとでした。答えになっていない説明です。
公式の文書で断言した意味
米国政府が公式の文書で中国の南シナ海に対する主張は国際法に合致しないと断言したことの意味は大きいと思います。米国がそれでも中立的態度を取るならば、フィリピンやベトナムが、「米国政府は中国の主張を違法だと判断しておきながら、東南アジア諸国を支持しないのは理解に苦しむ」というような疑問を呈する可能性もあります。さらに、違法だと判断しておきながら中立的態度を取るのは、「不作為により違法行為国を味方することになる」という議論を誘発するかもしれません。これに対して米国政府は明快な説明ができるでしょうか。
米国務省の報告書は尖閣諸島との関連でも重要な意味合いがあります。同諸島に関する中国の主張についても米国は法的な整合性を検討しているのでしょうか。もししていないのであれば、日本政府は米国政府に対し、中国の主張の違法性を明らかにするよう求めるべきではないでしょうか。米国政府は尖閣諸島の防衛が安保条約上の義務であることを確認していますが、同諸島に対する中国の主張が国際法に違反しているという法的解釈を下せば、それに劣らない強力な援軍となるからです。 (美根慶樹/平和外交研究所)