<南シナ海>中国の主張は「国際海洋法と合致しない」 米報告書が持つ意味
米国務省は今月初め、南シナ海での中国の「九段線」の主張について、「国際海洋法に合致していない」と報告書で発表しました。この報告書は、実は重要な意味を持つものです。それはどうしてなのでしょうか。報告書の内容と合わせてみていきましょう。 【図表】中国の戦略「真珠の首飾り」とは?
フィリピンなどと領有権争いする中国
我が国の領土である尖閣諸島について領有権を主張する中国は、南シナ海の島嶼(とうしょ)についてフィリピン、ベトナム、マレーシア、台湾などとも争いを起こしています。 フィリピンは、2013年1月、中国を相手に仲裁裁判に訴えました。仲裁裁判は2国間で争いがある場合、紛争当事国、この場合はフィリピンと中国がこの裁判について合意し、裁判官を選任して行われます。このような方法は紛争を平和的に解決するのに適していますが、中国は仲裁に同意しないという姿勢を取っており、2014年12月7日に「仲裁裁判所には管轄権がない」とする文書を公表しました。正式の仲裁裁判拒否宣言です。 一方、ベトナムもこの直後、南シナ海の一部島嶼に対する権利を改めて主張し、ベトナムとしても仲裁裁判を求める考えを示しました。今後、フィリピンの場合と同様、予備的な調査が行われることになるでしょう。フィリピンやベトナムがこのような行動を取った背景には、中国の南シナ海での活動の再活発化があります。
第三国の領土紛争には介入しない米国
米国はこれまで第三国間の領土紛争に介入しないという方針でしたが、国務省の海洋国際環境科学局は12月5日付で、南シナ海に対する中国の「九段線」の主張(南シナ海のほぼ全域を点線で囲み、中国の権利を主張したもの)は根拠が乏しく、「国際海洋法に合致していない」とする報告書を発表しました。この報告書は極めて重要ですが、日本では選挙の影響などのためかその重要性が正しく伝えられていません。一部には、米国が中国にその主張の不十分な点を補うよう促しているというような報道がありますが、それはこの報告書の趣旨でありません。 この報告書は、これまで種々の機会に表明された中国の主張を綿密に調べ上げ、国連海洋法条約など国際海洋法に照らして適切な主張であるか、判断しています。具体的には次のような指摘をしています。 ・南シナ海全域、いわゆる「九段線」で囲まれる海域に対する中国の主張は国際海洋法に合致しない(does not accord with the international law of the sea) ・中国による九段線の主張は、その範囲内の島嶼に対する領有権主張なのか、他国との境界線のことか、歴史的経緯の主張なのか明確でない ・中国で出版されている種々の地図は正確さ、明確さ、一貫性を欠き、中国の主張の性格と範囲(nature and scope)は不明確である ・中国の歴史的理由に基づく主張は、国際法で使われる、「公開の、周知の(notorious)、実効支配」の3基準に照らして成り立たない ・歴史的理由に基づく主張よりも、海洋法条約で定められた沿岸国の主権に基づく権利の方が優先すると同条約は明記している