日本で一番カッコいいトイレ清掃員を目指して……「どんな仕事もやりようによって、楽しく出来るんです!」
朝起きて最初にすることといえば……「用を足す」という方が多いと思います。いま、早起きして朝ごはんを召し上がっている方がいらしたら、本当にごめんなさい。これから「トイレ」のお話をいっぱいします。東京・奥多摩で「きれいなトイレ」を作り上げている方がいらっしゃいます。
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。 いま、紅葉が見頃を迎えている東京・奥多摩。JR青梅線の終着・奥多摩駅に、短い4両編成の列車が到着すると、中高年の方を中心に、平日でも山歩きの格好をした方がたくさん降りてきます。この皆さんがまず立ち寄る場所といえば「トイレ」です。 改札を出て左手、「トイレ近道」と書かれた貼り紙に従って、いざトイレに入りますと、「本当に公共のトイレ?」と思ってしまうほど、とてもきれいな空間が広がっています。あのトイレ特有のイヤなニオイは、全くしません。トイレから出て振り返ると、トイレで膝まずいて床を磨く男性のポスターがありました。 「OPT」 そう大きく書かれた3文字のアルファベットの上には、「オクタマ・ピカピカ・トイレット」、下には、「オピト」というルビがふられています。「オピト」とは、奥多摩のプロフェッショナルトイレ清掃員の愛称のこと。ポスターの男性こそ、オピトのリーダー・大井朋幸さんです。 大井さんは1974年生まれ、今月の終わりに50歳を迎えます。23区のご出身で、のちに奥多摩町へ移り住んで育ちました。2017年からいまの会社に勤めると、こんな仕事を命じられました。 「大井さん、今度新規事業で公共トイレの清掃やりますので、よろしくお願いします」 当時の奥多摩町のトイレは汚れ放題、観光客のごみも放置された劣悪な空間。しかも大井さん、とても潔癖で、公共トイレのような空間は大の苦手だったんです。それでも、作業着に防塵マスク、ゴーグルの完全武装で、何とかトイレ掃除に従事します。ところがある日、小学校低学年のお嬢さんが目に涙を浮かべて学校から帰ってきました。 「あのね、学校でみんなが……、お父さんのことを、“うんこ、うんこ”って言うんだ」 その言葉を聞いて、大井さんの心に火が付きました。 「わかった! お父さん、日本で一番カッコいいトイレ清掃員になってやるよ!」 “日本一カッコいいトイレ清掃員”を目指して、大井さんはまず、見た目から入ります。ユニフォームを普通の作業着から、ポップでカジュアルなものに変えることにしました。4 人のスタッフを、戦隊ヒーローの作品に見立てて、赤や黄色のカラーなども提案します。でも、コワモテのスタッフが、新しいユニフォームへの不満を口にしました。 「オレ、こんなの着て、あんまり目立ちたくないよ」 それでも大井さんは、日本一カッコいいトイレ清掃員を目指す熱い思いを伝えました。最終的にはしぶしぶ、カジュアルなユニフォームを着て、鏡の前に立ってもらいます。すると、バッチリ決まった新しい衣装に、スタッフが笑顔になっていくではありませんか。職場も、自然とお互いのあいさつの声が響き渡る場所へと変わっていきました。