“バンド”という名前のバンドがいた。/バンド特集・Web特別編!
そのバンドの名は、THE BAND。
1968年のデビュー・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』をリリースした当時のキャピトル・レコードの頭の固い重役たちは、その名前がバンド名だとはまったく理解できなかった。 バンドの話はいつまでも尽きない! 本誌に加えて、Webでもスペシャルなコラムをどうぞ。
「僕たちは、バンドです」「で、バンド名は?」「だからバンドですって!」……なんてコントみたいなやりとりがあったか知る由はない。だが、当時発売のレコードのラベルには、「リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、リチャード・マニュエル、ジェイミー・ロビー・ロバートソン」と、メンバー5人の名前だけが記された。このバンドには名前がない。それがレコード会社の判断だった。
最初から、名無しのバンドだったわけではない。かつてはザ・ホークスを名乗って、ロニー・ホーキンスのバック・バンドとしてカナダやアメリカをどさ回りしていた。「ホーキンス」をもじって「ホークス」。誰がメンバーになろうがホークスの名は受け継がれた。野球チームみたいな感覚だ。
’60年代半ば、独立した彼らはドラマーのリヴォンをフロントマンとして、リヴォン&ザ・ホークスを名乗る。リーダー&バンドという名付け方も当時の流行だった。だが、ボブ・ディランが彼らを’65年からの全米とヨーロッパ・ツアーのバック・バンドに雇い、運命はまたもや一転する。彼らは「ボブ・ディラン&ザ・バンド」になった。
ロック化したディランに対する嵐のようなブーイングも浴びた。ツアー後のオートバイ事故で隠遁したディランとともに’66年から山小屋「ビッグ・ピンク」でセッションを重ねた。そのうち、自分たちがやるべき音楽が見えてきた。彼らにとって「バンド」であることは、自分たちにとって自然であり、誇りのようなものになっていた。
今となれば、ファースト・アルバムに印字された5人の名前は「この5人にしかできない音楽」という意味に読める。それはすなわち、バンドがバンドで音楽をやる理由そのものだ。