植田日銀総裁「追加利上げは先行きの情勢次第」 トランプリスクにらみ裁量維持
日銀の植田和男総裁は18日、名古屋市内での地元経済界との懇談会で講演し、次の利上げの時期について「先行きの経済・物価・金融情勢次第だ」と述べた。明確なサインはなかったが、市場の一部は12月の利上げを織り込みつつある。トランプ前大統領の復帰を前に経済の不確実性は高まっており、日銀は高度な判断を迫られることになる。 【ひと目でわかる】トランプ氏当選で懸念される日本の企業活動への影響 ■消えぬ12月利上げ説 「経済・物価の見通しが実現していけば、それに応じて政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」。総裁は10月の記者会見と同様の発言をこの日も繰り返した。 12月の利上げに向けた「地ならし」がなかったことが伝わると、東京外国為替市場では円売りが加速。朝方に1ドル=153円台後半だった円相場は、講演の最中に一時、155円台前半まで下落した。 それでもなお、12月利上げ説は根強い。 理由の一つは、最近の円安基調の強まりだ。懇談会でも「行き過ぎた円安は原材料やエネルギー価格の高騰につながり、製造業の輸出にもマイナスの影響が及ぶ」(中部経済連合会の水野明久会長)など、為替の安定を念頭においた政策運営を求める声が上がった。 7~9月期の実質国内総生産(GDP)が2四半期連続のプラス成長となるなど国内経済が比較的堅調な一方、海外経済は先行きの不確実性が高いという事情も、「日銀が今のうちに利上げする」との見方を後押しする。 ■日銀はフリーハンド維持 ただ、この2つの要素を考える上で、「トランプリスク」には注意が必要だ。 大統領と上下院を共和党が握る「トリプルレッド」が実現する見通しとなり、トランプ氏が主張する大型減税や関税の引き上げが実現する環境が整いつつある。 植田氏は米国経済について「インフレが再燃する逆方向のリスクも否定できない」と警戒する。インフレ抑制のため、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げ停止や利上げに動けば、円よりも金利上昇の見込めるドルを買う動きが強まり、円安に振れやすくなる。 ただ、バイデン政権下で進んだインフレを攻撃して再選を果たしたトランプ氏がインフレを放置するとも考えづらい。「ドル安志向」とされるトランプ氏の鶴の一声で、円高ドル安に急速に振れることも想定される。