日韓で約300億円の収益 『キノコ伝説』快進撃を支える独自のゲーム性とマーケティングの妙
日韓のモバイルゲーム市場で『キノコ伝説:勇者と魔法のランプ』(以下、『キノコ伝説』)が存在感を強めている。 【画像】Sensor Towerが公開した『キノコ伝説』のプレイヤー分布 Sensor Towerが6月7日に発表した2024年第1四半期におけるAPAC地域(中国、日本、韓国、東南アジアなど)のモバイルゲーム市場に関するレポートによると、同タイトルは日本国内で最も収益成長率の高いタイトルとなった。また、韓国では『リネージュM』や『オーディン:ヴァルハラ・ライジング』などの数ある人気作を抑え、モバイルゲーム収益/ダウンロード数ランキングのトップに輝いたという。 なぜ『キノコ伝説』はモバイルゲーム領域で成功を収められているのか。その理由を考察する。 ■キノコ一族の勇者が主役の放置系RPG『キノコ伝説』 『キノコ伝説』は、中国にルーツを持つゲーム企業のJoy Net Gamesが開発・発売を手掛けるモバイルRPGだ。舞台となるのは、魔王によって安寧が脅かされているキノコたちの国。かつて魔王と壮絶な戦いを繰り広げたキノコ一族の勇者は、女神様が残してくれたランプの力によって、封印から目覚めつつある魔王の討伐へと挑んでいく。 特徴となっているのは、多種多様なジョブのなかから状況や戦略に応じて適切なものを選択していくシステム。プレイヤーは継続的な修練と新スキルの習得によってキノコを強化し、用意された各ステージの攻略を目指す。 一般的なモバイルRPGと同様に、強大なボスをフレンドと共闘することで打倒し、より多くの報酬を得る遊び方があるほか、「キノコ農場」「キノコ駐騎場」といったカジュアルなコンテンツを通じて、ゆるくフレンドとつながっていくスローライフ的な遊び方もある。ユーザーが能動的に関わらなくても眺めているだけでゲームが進行していく、いわゆる“放置系”に分類されるタイトルで、片手間でのプレイも可能な仕様を持っている。 日本市場では2024年2月のサービス開始から1週間で、850万ドル(執筆時のレートで約13億円)の収益を上げたことも話題となった。今回、Sensor Towerが発表したレポートによると、2024年4月時点で世界累計収益は2.7億ドル(同420億円)を突破しているという。同調査からは、そのうちの39.4%が韓国市場、30%が日本市場でのものであるという興味深いデータも明らかとなっている。 ■快進撃の理由は「独特のゲーム性」と「マーケティングの妙」に なぜ『キノコ伝説』はこれほどまでに支持されているのか。その理由は、幅広い層に刺さる独特のゲーム性とマーケティングの妙にあると考える。 先にも述べたとおり、『キノコ伝説』は「やりこみによって少しずつ強くなっていることを実感するRPGらしさ」と、「ゲーム内で出会ったフレンドとコミュニティを形成するオンラインシミュレーションらしさ」を両立している。例えるならば、前者は古典的で王道、後者はより現代的な遊び方と言えるだろう。よりメンズライクなゲーム性が前者であり、年齢・性別を問わず愛されているのが後者であると言い換えることもできる。 『キノコ伝説』はこうしたゲーム性により、幅広い層へとアプローチしている。それぞれの趣味・嗜好に応じて遊び方を変えられる点が、同タイトルの稀有の個性と言ってもいいだろう。実際にSensor Towerの調査では、日韓の両市場において、ユーザーの8割以上が男性プレイヤー、かつコアゲーマーであると示された一方で、カジュアルゲーマーやハイパーカジュアルゲーマーといった、本来こうしたタイトルがターゲットとしない層にプレイされている状況も明らかとなってきている。その一因には、かわいらしいグラフィックや気軽なプレイ感も影響しているのだろう。もしどちらかの層しか取り込めていなかったならば、現在の快進撃がなかったのは言うまでもない。 他方、幅広いユーザーへの訴求と切っても切り離せない関係にあると言えるのが、独自のマーケティング戦略だ。『キノコ伝説』の名がそのユーザー以外にも広く知られているのは、日本市場でのリリース当初に実施されたプロモーションの影響が小さくない。コスプレイヤー/グラビアアイドルの東雲うみをPR大使に起用し制作されたWeb CMは、その一例。同広告はあらゆる媒体に出稿され、さまざまな層へとアプローチした。 なかには、そもそもゲームカルチャーにあまり興味がなかったり、プレイする習慣があったとしても対象がRPGではなかったり、といった人の目にも触れたと推測されるが、これまで同タイトルの快進撃を支えたユーザーの一部には、CMを目にしたことをきっかけに興味本位でインストール/プレイしてみた人も少なからずいるはずだ。 前述のように、RPGに分類されるタイトルではあるものの、RPGらしくない性質も持つ『キノコ伝説』にとっては、とにかく一度手に取ってもらうことが大切だった面もある。ともに実施された「最大3,000回分の無料ガチャがもらえるゲーム内イベント」や「キノコのオリジナルエフェクトを活用したTikTokでの露出」もまた、同様の目的を持ったキャンペーンだったと言える。 こうしたマーケティング戦略が功を奏し、『キノコ伝説』は稀に見る好スタートを切ることができた。Sensor Towerのレポートによると、とりわけ日本では、台湾や香港、韓国といった他の主要市場と比較し、重要指標のひとつであるRPD(1ダウンロードあたり収益額)が高い水準で推移しているのだという。独自のマーケティング戦略は、ユーザーの獲得のみならず、高い収益率にも寄与していたというわけだ。 Sensor Towerは、今回のレポートから見えてきた傾向を踏まえ、「(今後の展開次第では)日本が『キノコ伝説』の世界最大の市場になる可能性がある」と結論づけている。現状では約2,500万ドル(同40億円)の開きがあるが、その差が埋まるのも時間の問題と考えているようだ。 私は今年1月、おなじくSensor Towerが発表した「2023年下半期における日本のモバイルゲーム収益/ダウンロード数ランキング」を取り上げ、収益ランキングで1位に輝いた『モンスターストライク』の魅力について論じたが、2024年上半期、さらには同年下半期のランキングでは、その牙城が崩れることになるのかもしれない。 『キノコ伝説』の快進撃はどこまで続くのか。同タイトルは時代を象徴するタイトルとなりつつある。
結木千尋