中国に派遣された北朝鮮人労働者たちの苦境 「帰国させてほしい」異例のストライキも
北朝鮮は外貨稼ぎのため、中国に多くの自国民を派遣している。そうした労働者たちは、国連の制裁決議に違反すると指摘される存在だ。AERA 2024年10月28日号より。 【写真】中国遼寧省丹東からも「愛国青年」「一心団結」「自力更生」といったスローガンが確認できる * * * 「お父さんとお母さん、弟に会いたくてたまりません」 中国東北部の遼寧省にある北朝鮮レストランで10月初旬、北朝鮮人の女性従業員が表情を曇らせた。北朝鮮の首都・平壌出身。20代前半で、中国に来てから約5年が過ぎた。 どこの国に行ってみたいかという話題になった時だった。ほかの国を訪ねるより、一日も早く祖国に帰りたい。力なくそう言った。当分その機会はなさそうだという。 中国では、従業員が歌や踊りを披露する北朝鮮レストランのほか、焼き肉屋や地元料理を出す飲食店でも北朝鮮人従業員が働く。 北朝鮮が2020年1月から約3年7カ月の間、新型コロナウイルス対策を理由に国境を封鎖したため、労働者たちの中国滞在が全般的に延びた。長いケースでは8年以上留め置かれた人もおり、家に帰れず家族にも会えない労働者らの不満やストレスが極度に高まった。 2023年8月に国境を限定的に開放し始めたあと、北朝鮮は滞在が長引いている労働者や病人を帰国させている。希望者が多いなか、「結婚が急がれる」という理由で30歳を超えた女性は優先的に帰国枠に入れられた。 ■なぜいまも労働者が? 中国では衣料品や電子部品の製造、水産加工などの工場でもたくさんの北朝鮮人労働者が仕事をしている。事情を知る複数の関係者によると、工場によって差はあるが、現在の北朝鮮人労働者の賃金は月2500元(1元=約21円)程度。北朝鮮側の会社の取り分や当局への上納を除いて、労働者本人には600~700元ほどが渡されるようだ。 北朝鮮にとって、国外の労働者がもたらす外貨は貴重な収入だ。それが核・ミサイル開発の資金源になるのを防ごうと、国連安全保障理事会は2017年12月の制裁決議で、北朝鮮の国外労働者を2年後までに帰国させるよう加盟国に義務づけた。