「監督は隙あらばボールを蹴っている」44歳玉田圭司は“全盛期”を知らない高校生に何を伝えているのか? 同級生たちと追う“第二の青春”
いきなり全国優勝「自分のおかげではない」
就任わずか半年足らずで全国制覇を達成したインターハイの決勝。神村学園との死闘を制するホイッスルが鳴り響いた瞬間、玉田は大きくガッツポーズをして天を仰いだ。スタッフたちは監督に抱きついた。コーチ陣に積極的に意見を求めたり、事象について議論を交わしたりと、周りと連携を取りながら強化に努めたことが実った瞬間だった。 玉田はもちろん笑顔だったが、その表情は自らの喜びではなく、共に大喜びするスタッフの姿を見て感慨に浸っているように見えた。 「そう見えましたか? そうですね、スタッフとは毎日ずっと一緒にいてサッカーの話もすごくたくさんしたし、その中でいろんな気づきが自分にもあった。自分のおかげで勝ったわけではないので、感謝みたいな感情は真っ先に浮かびましたね」 閉会式のあと、玉田はスタジアムの通路の壁に向かって一人でボールを蹴っていた。眩しいばかりの太陽が照りつけるピッチとは正反対の薄暗い通路。だが、まるで多くの光が照らしているかのように、玉田の表情は輝いて見えた。 キャプテンを務めるMF大谷湊斗(3年)は、普段はフレンドリーに接してくれる監督の姿に刺激を受けている。 「足の筋肉が誰よりも凄くて、僕もそうなりたいし、そうならないとプロの世界で長くプレーしたり、世界を相手に戦えないと感じました。隙あらばボールを蹴っていますし、サッカーに対する熱い思いが伝わってくる。それも上に行く大事な要素なのだと感じます」 世界のトップステージに立った人間が、自分の原風景のひとつである育成年代に戻って経験を還元する。そこで、日本サッカーの未来を担う選手から新たな学びを得て共に成長をしていく。この輪廻が生まれることで、選手育成と指導者育成の両輪が大きく動き出していく。 冬の選手権では「インターハイ優勝監督」として、いやが上にも注目が集まるだろう。それでも、玉田監督はブレない。 「先のことを考えないでやりたい。先のことを考えすぎると、サッカーを楽しむ、楽しませることができないと思う。それにチームとしてのスタイル、スタンスを見ている人たちに感じさせることが楽しませることだと思うので、そこにフォーカスを当ててやっていきたい。こういうスタンスでやっていれば、自然と道って開けてくるんです」 この先、高校サッカー界を牽引していく存在になっていくのか、それとも高校年代に留まらずにプロの世界で指揮を執っていくのか。 「独りよがりじゃダメなんですよね、指導者って」 新しいスタート地点に立ったサッカー小僧は、じつに楽しそうだった。 (全2回・完/前編からつづく)
(「“ユース教授”のサッカージャーナル」安藤隆人 = 文)
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