Jリーグ「JAPANESE ONLY」事件の真実。その裏で起きた「八百長疑惑」。立て続けに起きた2つの事件とは
少しでも対応を間違えれば致命傷になりかねない2つの事件
沖縄から戻った村井は、すぐさま御茶ノ水のJFAハウスにて、事件の対応の陣頭指揮を執る心積もりであった。ところが――。 「村井さん、実はもう1件ありまして」 申し訳なさそうに声をかけてきたのは、フットボール統括本部本部長と競技・運営部部長を兼任していた、窪田慎二。窪田によれば「JAPANESE ONLY」事件が起こった同日、八百長の疑いがあるとの連絡が入ったという。カードは、エディオンスタジアム広島で行われた、サンフレッチェ広島対川崎フロンターレ。 「ちょっと待ってよ。日本では、賭けなんかできないんじゃないのか?」 人種差別のメッセージには、すぐに反応できた村井であったが、Jリーグの試合での八百長疑惑というのは、まさに青天の霹靂(へきれき)。しかし窪田から「村井さん、海外ではJリーグも賭けの対象となっているんですよ。世界中に400以上の胴元があるようです」と教えられ、初めて「スポーツ・ベッティング」の存在を知ることとなる。 スポーツ・ベッティングとは、スポーツの試合を対象にした賭けのこと。サッカーのみならず、野球やバスケットボールやテニスなど、あらゆるスポーツが対象となっており、賭けのメニューも豊富。サッカーであれば、試合中のイエローカードの数や最初の得点者など、試合中に起こり得るすべての事象を賭けの対象としていた。 欧州では、早くから合法化されていたスポーツ・ベッティングだが、当然ながら八百長が起こるリスクを完全に排除するのは難しい。そこでFIFA(国際サッカー連盟)は、サッカー界の公平性を遵守するために、EWS(アーリー・ワーニング・システム)社を2005年に設立。EWS社は独自のシステムにより、スポーツ賭博市場でのサッカーの試合の賭け率を監視しながら、検知や分析などを行っていた。 そのEWS社から、広島と川崎の試合で「小さな異常値が見られた」という連絡が入る。八百長が事実となれば、ことはピッチ上の公平性の問題にとどまらない。2001年からスタートしたスポーツ振興くじ「toto」の信用をも揺るがしかねないからだ。 サッカーのみならず、さまざまな競技の環境整備や国際的な活動への支援、さらにはアスリートや指導者などの育成の原資となっているtoto。もし本当に八百長が行われていたなら、これまでJリーグが築き上げてきた信用もまた一気に瓦解(がかい)する。 一方で、世間はJリーグ、とりわけ新チェアマンの「JAPANESE ONLY」事件への対応を注視していた。この問題に対して明確な方向性を示しながら、水面下ではEWS社からのアラートについて調査を進める。どちらも、少しでも対応を間違えれば、Jリーグにとって致命傷になりかねない。 こうした困難な状況に、就任からわずか1カ月の「異端のチェアマン」は、真正面から対峙することとなったのである。 (本記事は集英社インターナショナル刊の書籍『異端のチェアマン』より一部転載) <了>