Jリーグ「JAPANESE ONLY」事件の真実。その裏で起きた「八百長疑惑」。立て続けに起きた2つの事件とは
普段は温厚そうに見える村井だが、この時ばかりは…
あらためて、時系列を整理しておこう。 埼スタでの浦和対鳥栖のキックオフが16時4分。問題の垂れ幕の写真を海野がツイッターにアップしたのが16時40分。そして槙野のツイートが21時53分。以降、サッカーファンのタイムラインは、この話題で一色になってゆく。 Jリーグ広報部部長の萩原は、この日、チェアマンの村井と共に新幹線で新潟から東京へ移動していた。ここで鹿島に向かう村井と別れ、羽田から空路で沖縄に向かっている。翌9日、当地で開幕するJ3リーグを村井が視察するため、先乗りすることとなっていた。 移動のさなか、萩原はツイッターでの炎上を認識している。しかし村井への報告は、当人が沖縄入りするタイミングとなってしまった。 「なぜ、昨日のうちに報告しないんだ!」 普段は温厚そうに見える村井だが、この時ばかりは萩原を厳しく叱責している。どうやら両者の間に、「JAPANESE ONLY」というメッセージに対して、明らかな認識のズレがあったようだ。 まず、萩原の当時の認識。 「当初、これが差別問題に結び付くという感覚は、私の中ではありませんでした。それに対して村井さんは、いろいろなことが瞬時に脳裏を駆けめぐったんでしょうね。だからこそ、すぐに報告がなかったことを問題視したんだと思います」 実際、村井の認識は「あり得ない話」というものであった。チェアマン就任から1カ月が過ぎていたが、香港で働いていた頃の感覚が鮮明に残っていたことが大きかった。 「チェアマンに正式に就任するまでの間、私は香港で最後の挨拶回りをしていたんです。前職ではアジア26都市で、ゼロからオフィスを作って、従業員ものべ1000人くらいいました。ほとんどが現地採用です。その感覚が残っていたから『JAPANESE ONLY』なんて、あり得ない話だと。ましてやサッカーは、グローバルなスポーツです。そんな思いがあったからこそ、あの時は萩原を叱りつけました」 萩原はJリーグに入社する以前、日本マクドナルドや国内の大手携帯電話会社などで、ずっと広報畑を歩んできた。その後、広報部部長からコンプライアンス室室長となり、さまざまな差別やハラスメントの問題と真摯に向き合ってきた。 そんな彼でさえ、当時は「JAPANESE ONLY」が差別問題に結び付くという認識は希薄だった。萩原だけではなく、おそらくJリーグの職員の多くが、その程度の認識だったと思う。かくいう私自身、あの垂れ幕を見た瞬間に「これは差別だ!」と察知できただろうか? 少なくとも2014年の時点であれば、いささか心許ない、というのが実際のところだ。