何歳まで働きますか?定年制を考える◆高齢化進む日本、廃止事例も #令和に働く
一定の年齢で労働契約が終了する「定年制」。2045年には高齢化率36%に達するとみられる日本では、長寿化や人手不足を背景に定年が少しずつ延長され、ついには70歳定年も現実味を帯びてきました。定年制の未来はどうなるのか。退職後のキャリアを模索する個人や定年を廃止した職場を取材し、「いつまで、どう働くか」のヒントを探りました。(時事ドットコム取材班 川村碧) 【アンケート結果】何歳まで働きたい? ◇定年制「次のきっかけに」「若い人へバトンを」 年齢による線引きや退職後のキャリアをどう考えているのか知ろうと、記者は「東京しごとセンター多摩」で開かれた55歳以上向けの再就職セミナーを訪れた。東京都昭島市から来た男性(65)は、この春に約40年勤めた部品製造会社を退職し、求職中。「次のキャリアを考えるきっかけになる」と定年を前向きに受け止める。次の仕事は、営業職で磨いたコミュニケーション能力を生かせる接客業を考えており、75歳まで働くのが理想という。「年金だけで生活していくのは心もとないので少しでも働き続けたい。仕事をすれば規則正しい生活ができるし、家族以外の人と話す時間も欲しい」と話す。 9月に定年を迎えた歯科衛生士の女性(60)は、勤めていた職場で定年後も嘱託職員として継続雇用される道もあったが、「仕事内容は同じなのに年齢を機に給料は65%に下がるのは納得いかない」と断ったという。経験を生かして働くか、思い切って職種を変えるか悩んでいるそうで、「高齢者でも再就職できるというセミナーが多いけれど、正直なところスキルや体力面でどれくらい活躍できるか不安」と漏らした。 福祉業界で事務職をしてきた男性(62)は60歳で退職し、同じ業界で仕事を探している。「昔は還暦を過ぎれば引退だったが、自分がその年齢になってみるとまだ頑張れる気がする。体が動くうちは働きたい」と力を込める。定年制度への考えを聞いてみると、「若手にバトンタッチするべきだし、自分がこの先働けるかどうか見極める分岐点としても必要。専門を生かしたい、短時間で働きたいなど人によって希望は違うだろうから、退職後の働き方に選択肢が多いといい」と語った。 ◇「働けるうちはいつまでも」が2割 セミナー参加者からは収入や健康維持のために働き続けたいという声が聞かれたが、高齢者の働く意欲が高いことはデータからも見て取れる。2019年度に内閣府が全国の60歳以上の男女に実施した調査(回答者1755人)で「何歳まで仕事をしたいか・したかったか」を尋ねたところ、2割が「働けるうちはいつまでも」と答え、「70歳くらいまで」とそれ以上の年代を合わせると6割に上った。 このうち仕事をしている654人に、理由を問うと「収入がほしい」が45.4%で最も多く、「体によい・老化を防ぐ」(23.5%)、「仕事が面白い・知識や能力を生かせる」(21.9%)が続いた。実際に23年の65歳以上の就業率は25.2%で、世界の主要国の中でも高い水準にある。 世界に目を向けると、アメリカやイギリスでは年齢差別として定年制を禁じている。日本では高年齢者雇用安定法に基づき、企業は定年を60歳以上に定めることになっており、約6割が60歳定年を導入。しかし年金は65歳から支給されるため、年金も収入もない5年間が生じるのが課題だった。そこで政府は、企業に65歳までの定年引き上げや継続雇用、定年廃止のいずれかの対応で、希望者が65歳まで働ける機会を提供するように義務付けた。 厚生労働省の調査(23年6月時点)によると、23万6815社のうち「継続雇用制度の導入」(69.2%)や「定年引き上げ」(26.9%)をしている企業が大半を占め、「定年廃止」は3.9%と少数派だ。政府は、努力義務として70歳まで働ける環境づくりを求めており、対応を進める企業も出てきている。