2歳女児の死因は虐待か病気か、法廷で交わされた「医学論争」 無実訴え続ける養父の判決は
2歳の女児が死亡したのは虐待か病気か-。大阪市東淀川区で平成29年、養子の娘の頭部に何らかの衝撃を加え、死亡させたとする傷害致死罪などに問われ、1審で懲役12年の判決を受けた今西貴大被告(35)の控訴審判決が28日に大阪高裁(石川恭司裁判長)で言い渡される。被告は一貫して無実を主張。控訴審では異例の人数となる8人の医師への尋問が行われ、死亡の原因などを巡って激しい「医学論争」が交わされた。 【表でみる】大阪高裁における2歳女児の傷害致死事件の主な争点 女児は平成29年12月16日夜、自宅で被告と2人きりだった際に急変し、心停止。被告が119番してから30分後、搬送先の病院で心拍が再開したものの意識は戻らず、7日後に死亡した。 頭の表面に傷はなかったが、心拍再開から約40分後のコンピューター断層撮影(CT)検査で硬膜下血腫やくも膜下出血が見られた。1審大阪地裁の裁判員裁判は令和3年3月、頭を強く揺さぶったり、布団にほうり投げたりするなどの暴行が原因と考えられるといった医師らの証言を重視し、頭部外傷によって脳の最も内側にある「脳幹」が損傷し、心停止したと認定した。 控訴審で弁護側が主張したのは暴行という「外因」ではなく、心筋炎などの「内因」で先に心停止が起こり、その後に頭蓋内で出血したという〝逆〟の順序だ。 心停止で血流が途絶えると脳の血管は劣化する。その状態で心拍が戻り血液が送り込まれる「再灌流(かんりゅう)」が起きると、血管から出血してしまうというメカニズムだ。こうした症例があること自体は検察側も認める。 弁護側はさらに、脳幹や大脳自体の損傷が急変時の状況をとらえたCT画像の中に見つからないと指摘。脳の最も内側にある脳幹が外からの強い力によって損傷したのであれば、脳自体に出血などの痕跡が残るはずで、それがないことは内因による頭蓋内出血だったことを裏付けるとした。 一方で検察側は改めて、暴行によって頭蓋内損傷が起きたと主張。控訴審に検察側証人として出廷した医師らは、CT画像に損傷が写っていなくても、くも膜下出血の存在が外因によって脳自体が損傷したことを「推測させる」と述べた。死後に解剖した脳を顕微鏡で見ると、出血が「あった」とも証言した。 また検察側は、再灌流による出血は心拍再開からCT検査までの約40分間という短時間では生じないとも主張。いずれの争点でも、弁護側証人の医師らと医学的見解が対立した。
被告は今年7月に保釈が認められ、約5年5カ月に及んだ身柄拘束を解かれた。1審で長期の懲役刑の判決を受けた被告が、無罪を主張する控訴審の途中で保釈されるのは異例。(西山瑞穂)