失われつつある「コモン」とは何なのか。斎藤幸平さんと神宮外苑から考える
コモンを守るために何ができるのか
専門家や市民らの視点を取り入れることを、私は「コモンの自治」と呼んでいます。 コモンの自治により、街の魅力も高まると思います。その中で、開発中止や高層ビルを建てないという決定、先端技術を利用して環境に負荷をかけない方法を取り入れるなどの選択が必要な場合も生じるでしょう。 そうした選択は、資本主義の論理の中から自発的に出てくるものではありません。市民が声をあげ、行政を動かすなどのプロセスが必要です。 市民参加のプロセスを取り入れることで、社会の中で民主主義の機運が高まると思います。 「コモンの自治」と言われても、抽象的に感じる人もいるかもしれませんが、「神宮外苑をどう未来に継承していくか自分たちで考える」と捉えると、少しわかりやすいのではないでしょうか。 例えば、気候変動というと問題が大きすぎますが、近所の街路樹が伐採されて、木陰のない炎天下の街を歩くことになると想像すれば、自分ごととして捉えられる人もいるかもしれない。 それをきっかけに、気候変動が進む時代の開発はどうあるべきか、公園や街路樹をどう管理していくかといった問題を、一人一人が考えるようになれば、コモンの自治が深まるのではないかと思います。 コモンを守るためには、同じ問題意識を持った人たちが集まる会に参加するなど、まずは何か行動を起こしてみるといいと思います。 そこでのポイントは、リーダーフル(自発的に動く大勢のリーダーがいる状態)であること。誰かひとりのリーダーの指示で動くのではなく、ほかの人とも協力しながら、ひとりひとりが自分のできること、得意なことで運動を盛り上げていくのが大事です。 「コモンの『自治』論」でも書いたように、神宮外苑の再開発反対運動でも、イラストが得意な人がフライヤーを作ったり、地域のネットワーク力のある母親たちが地元で集会を開いたり、法律に詳しい人が差し止め訴訟を立ち上げるなど、それぞれ自分の力を生かした活動をしています。自分の訴えたいメッセージを書いたボードをもって、駅前やスーパーの前でスタンディングをするだけでもいいのです。 こうして自治のノウハウを得たり、自分の持つスキルを役立てたりしていくうちに、コモンの自治を他の問題にも広げていくことができます。 コモンは、文化的な生活を送るために必要な財やサービスで、誰もがアクセスできるべきものであるからこそ、より民主的に管理・運営される必要があります。神宮外苑をきっかけにコモンの自治を考えれば、私たちの社会の民主主義が深まっていくのではないかと思います。