失われつつある「コモン」とは何なのか。斎藤幸平さんと神宮外苑から考える
コモンが奪われることで起きる弊害
神宮外苑に限らず、コモンの商品化の背景にあるのは、世界的に不況が続く中で「サービスや財を公ではなく市場に委ねれば、効率化が進んでお金が節約でき、さらには競争でイノベーションが起きて経済成長できる」という考えが強化されたことです。 たしかに、コモンだった空間やモノやサービスを独占し、非正規雇用で賃金をカットしていけば、短期的には手っ取り早くお金を儲けることができます。 しかし、皮肉な話ですが、こんな楽なやり方に慣れてしまった企業からは、イノベーションを起こす力はなくなります。 また、開発を資本主義の論理にだけ任せると、同じようなものばかりになるという問題もあります。 例えば、渋谷など東京の様々な場所で、大手ディベロッパーが主体となり、多くの高層ビルを建てる再開発がすでに進められています。だけど、できたのは似たような商業施設ばかり。そのような開発に見合う収益を上げられるビジネスモデルは限られているからです。その結果、渋谷はもはや若者の街ではなくなりました。 似たような開発が進めば、都市全体が均質化して、元々あった文化的魅力が失われていくでしょう。それだけでなく、コミュニティや景観、公共空間が壊され、暮らしにくい場所になってしまう。 特に神宮外苑のような、市民の手で作られ100年もの歴史がある場所での再開発は、コミュニティや伝統、文化、さらには東京全体の魅力にも非常に大きな影響を及ぼすと思います。
環境問題は資本主義を変えられないのか
昨今、環境破壊による弊害が顕著になり、温暖化も目に見える形で進んでいます。 そういった中で、SDGsやESGなどの形で、行き過ぎた資本主義を是正しようとする動きがあり、ステークホルダー資本主義やグリーン資本主義などの言葉も生まれました。 神宮外苑再開発の場合も、携わっている企業はSDGsを謳っていますが、貴重な都市の樹木を伐採する開発を進めようとしている。 投資家たちの善意だけに頼って、規制や持続可能な資本主義への転換を願うというのは楽ですよ。私たち何もしなくていいのですから。だけど神宮外苑の再開発は、それが幻想だと伝えています。企業は放っておけば、楽なビジネスモデルに走るからです。 だからこそ、真のSDGs社会を実現していくためには、市民と行政が積極的に関わる必要があります。 それは規制で企業をがんじがらめに縛り、まったく再開発をするなということではなく、様々な視点を取り入れるということです。 例えば神宮外苑の場合は、日本イコモス国内委員会や専門家集団、市民らが、樹木をほとんど伐採しなくてもいい計画や、建物を改修する案など、様々な提案をしています。 そういった視点を取り入れることで、より良い計画にできる可能性があるわけです。 それにも関わらず、事業者側の視点だけで開発を推し進めれば、結果的に文化的価値のある遺産を壊してしまいかねません。対話さえ拒否する姿勢は、企業や行政の怠慢でしかありません。彼らには、なぜ再開発が必要で、現在のプランが最も望ましいものなのかをわかりやすい言葉で、情報開示しながら、説明する責任があるのです。