[特集/最強ボランチは誰だ 02]現代ボランチ像のルーツ 歴史に名を刻んだ名手13人
英国型ハードワーカーとは対極のスペイン型ピボーテ
スペインの「ピボーテタイプ」はまた少し違う。スペイン語で「回転軸」を意味するピボーテは、ボランチの本来のイメージに近い。代表的なのはバルセロナで黄金時代を支えたセルヒオ・ブスケッツだろう。リヴァプール、レアル・マドリード、バイエルンで活躍したシャビ・アロンソは高精度のロングパスの名手だった。 タイプとしてはピルロに似ているが、ガットゥーゾのような守備を補完してくれる相棒はおらず、中盤を組むのは攻撃的なインテリオール(インサイドハーフ)である。 スペインのピボーテはオランダ由来で、最初のモデルは「ドリームチーム」と呼ばれたバルセロナのジョゼップ・グアルディオラだ。ヨハン・クライフ監督が持ち込んだアヤックス方式の戦術において、DFの前に位置するMFはボールの中継地点、ビルドアップの軸として機能した。
ある意味、英国型のハードワーカーとは対極で、フィールドの中央にどっしりと構える。走り回るよりもチームのヘソに位置していることが重要だからだ。どの選手とも線を結べる位置にいることによって、ピボーテにボールが集まり、ピボーテからパスを捌ける。つまり、主に攻撃時にボールを運ぶことを主眼とした役割なのだ。走れて戦える屈強な選手ではなく、華奢な技巧派だったグアルディオラを抜擢したのは当時としては画期的だったが、その流れは現在まで続いていてスペイン代表にも影響を与え、オランダというよりすっかりスペインのスタイルとして定着している。 ピボーテの源流だったオランダでは、フランク・ライカールトがアヤックスでその役割を完璧に果たしていた。ただ、ライカールトはACミランでは英国式フラットラインのセントラルMFとしても大活躍していて、CBやトップ下でもトップクラスという破格の万能選手である。史上最高のボランチかもしれない。
MFではないが、SBがボランチ化する「偽SB」は近年の流行で、ダニ・アウベスやフィリップ・ラームはその先駆けだった。現在はマンチェスター・シティのジョン・ストーンズがCBからボランチ化する「偽CB」として知られているが、かつての攻撃的リベロの焼き直しと捉えることもできる。フランツ・ベッケンバウアー、マティアス・ザマー、ローター・マテウスなど、ドイツにはこの系譜があったのだが、現在はリベロそのものがなくなっているので途絶えている。 組み立てと守備、さらにプラスアルファ。タイプはさまざまだが、攻守に万能な総合力の高さが求められるポジションはスペックの高い名手を数多く生み出してきた。 文/西部 謙司 ※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第292号、4月15日配信の記事より転載
構成/ザ・ワールド編集部