[特集/最強ボランチは誰だ 02]現代ボランチ像のルーツ 歴史に名を刻んだ名手13人
攻守にハードワークするBOX to BOXタイプ
また、ヴィエラはアーセナルでは両方のペナルティエリア間を行き来する「BOX to BOXタイプ」のMFとして活躍している。そのころのイングランドのクラブチームはほとんどが[4-4-2]システムを採用していて、MFは横並びのフラット。広範囲に攻守で貢献することが要求されていたポジションだった。長身でリーチが長く、相手の懐に足を突っ込んでボールを奪えるヴィエラは、攻撃では大きなストライドで駆け上がり、よく決定機も演出していた。 ジェフユナイテッド市原・千葉や日本代表の指揮を執ったイビチャ・オシム監督は、しばしば「水を運ぶ人」の重要性を話していた。 では、「水を運ぶ人」は誰のため、何のために水を運ぶのか。運んだ水は飲むのか、撒くのか。正解は「マイスターのために運ぶ」だ。
マイスターは職人のトップにいる人で、いわゆる親方。例えば、レンガ職人がレンガを積むために必要な水を井戸や川から汲んでくるのが「水を運ぶ人」になる。親方自ら水を運んでいたのでは非効率なので、職能に合わせた分業システムというわけだ。 純然たるプレイメイカーがいた時代は、それを支える「水を運ぶ人」もいて、ピルロ+ガットゥーゾは21世紀にそれを復刻させた成功例だった。ブラジルでは第一ボランチ、第二ボランチと呼び、並列に見える2人のボランチにも違う役割をもたせていた。 一方、英国ではサッカーが労働者階級のスポーツだったせいか、特権階級は存在していない。2人のボランチは平等で並列。選手個々の特長の違いはあっても、要求されていることは同じで基本的に左右の場所の違いしかなかった。そうした伝統から生み出されたのが攻守にハードワークする「BOX to BOXタイプ」のMF。マンチェスター・ユナイテッドで活躍した闘将ロイ・キーン、ハードワークにゲームメイク、得点に至るまで一手に引き受けていたフランク・ランパード、スティーブン・ジェラードらにつながっていく。