佐藤二朗が12年ぶりに新作戯曲『そのいのち』を書き下ろし
脚本を書く源は、「負を力に変えることが生きること」
障害のある妻役は、実際にハンディキャップを持ちながら女優として活躍する佳山明、上甲にかがWキャストで務める。「当初は健常者の女優さんに演じてもらうことを想定していたのですが、ハンディキャップのある方に出ていただくことにしたのは、垣内俊哉さんという方との出会いが大きいです。垣内さん自身も車椅子で、“障害を価値に変える”という意味のバリアバリューをコンセプトにした株式会社ミライロの社長さん。僕はかねてから、“負を力に変えることが生きること”と祈るような気持ちで信じていて、そのコンセプトにすごく共感して、自分が書きたいことってこういうことだよなと思ったんです。それと同時に、Eテレの番組「バリバラ」で「障害者は俳優になれないのか」という特集が組まれていて、彼女たちの熱意を感じましたし、僕自身が書く源になっている「負を力にすることが生きることだ」というのを実際にこの目で、稽古場や本番で見たかったという理由もある。それが作品の力につながるのではと思っています」。 「負を力に変えること」について、さらに次のように語る。「負は大なり小なり誰しもが抱えているもので。例えば、盲腸になって会社や周りに迷惑をかけたけど、それをきっかけに煙草をやめられたとする。そうなると怪我の功名ですよね。小さなことでもいいので、そういうことの繰り返しが、生きるってことなのかなと。生きると言うと少し大仰ですけど、誰しも負を持っている以上は、うまく付き合うことも大事ですけど、できればそれが力に変わればいいですよね。それってやっぱり人間にしかできないことだとも思いますし。あと、何かを書くってなると、それなりに真剣にならないと書けないので、自分が心血注いで書けるのは“負を力に変えること”なのかなと思います」。 何かを受け取らずにはいられないような作品になりそうだが、自身としては「そういうのがモチベーションではない」と話す。「あくまでこういう芝居がしたい、と。あるいは、僕の好きな俳優さんがこういう状況に追い込まれたとき、どんな表現をするのか、どんな顔になるのかを見たいということの方が強いです。これを見てメッセージを受け取ってほしいというのは特に考えていないですが、結果的にそうなれば、すごくいいなとは思います」。 取材・文/黒石悦子 <公演情報> 『そのいのち』 【脚本】佐藤二朗 【演出】堤泰之 【出演】宮沢りえ/佐藤二朗/本間剛/今藤洋子/他 【東京公演】 ▼11月9日(土)〈プレビュー公演〉 ▼11月10日(日)~17日(日) ※12日(火)休演。 世田谷パブリックシアター 【兵庫公演】 ▼11月22日(金)~24日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 【宮城公演】 ▼11月28日(木) 東京エレクトロンホール宮城