【フィギュア】坂本花織4連覇も「守りに入って」唯一のミス悔やむ、世界選手権へ攻めの姿勢貫く
<フィギュアスケート:全日本選手権>◇22日◇最終日◇大阪・東和薬品RACTABドーム◇女子フリー 坂本花織(24=シスメックス)が2014~17年の宮原知子以来、史上9人目となる4連覇を達成した。ショートプログラム(SP)1位で迎えたフリーで149・76点、合計228・68点を記録。通算5度目の優勝を飾った。史上5人目かつ65年ぶりの4連覇が懸かる、来年3月の世界選手権(24~30日、米ボストン)代表にも内定。仲間思いで心優しきエースが、日本一決定戦で強さを示した。 ◇ ◇ ◇ 輪の中心で、笑わせていた。メダリスト会見前。坂本はカメラマンから「おめでたい」と引っかけた鯛(たい)の被り物を託されると、ためらいなく、かぶってみせた。「動いてみてください」の求めに「(動いても)撮ってるの静止画じゃないですか!」と笑顔で突っ込む。2位の島田には「食べていいよ」と頭を差し出し、場を和ませた。 温かい世界女王だ。昨夏の盛岡合宿。自由時間の夜に、見知らぬ男性から唐突に声をかけられた。「お金…助けて」。同門の三宅咲綺から「かおちゃん、行こう」と手を引っ張られ退散を促されたが、坂本は「どうしてですか?」と平然。「予定よりも物を買いすぎた」との事情を聴くと「困りましたね」と親身に、帰りの電車賃として1000円札まで差し出していた。 そのまま駅の待機室で談笑。出発5分前まで語り、最後は改札で見届けた。「その人の立場になって『自分はどうやって動いたらいいか』考える癖があって。1000円を渡せば、交通費になる。余ったお金でおにぎりくらいは買えると思ったの」。理由があった。 他の選手に対しても同じだ。昨年の全日本では、控室で他スケーターの応援タオルを次々掲げた。自身のグッズを持参してくれたと明かす男子初優勝の鍵山優真は「すごいですよね。販売されているタオルは全部たぶん持ってきてくれた」と驚いた表情で証言する。 世界選手権で3連覇しても、人柄が変わらないのはなぜか。「(スケートの)成績だけで付き合いたくない。言いにくいことでも『かおちゃ~ん、それ違うや~ん』『何やってんね~ん』と私には言いやすいみたいで。それをなくしたくない気持ちもある」という。 礼儀正しさも、変わらない。今大会の午前に設けられた、滑走順の近い6人が同時に30分ほど滑る公式練習。坂本は3日間すべて最後にリンクを離れた。練習直後に製氷作業へと入るスタッフへ、最後まであいさつをしていたからだった。 ただ、厳しい。自分だけには。4連覇したフリー。フリップ-トーループの連続3回転ジャンプで2本目が2回転となった。ジャンプでは唯一のミスだったが「守りに入ってしまった。練習だったら3(回転)をやっている」。後悔を糧に女子65年ぶりの4連覇が懸かった世界選手権に向けて「守りに入らず、攻めの姿勢で」と約束した。坂本は温かさと自分への厳しさを胸に、世界の最前線で戦い続けている。【藤塚大輔】