光君(10月23日)
実らぬ恋で学んだ男女の機微が、創作に生きたか。NHK大河ドラマ「光る君へ」の紫式部は最近、ようやく筆が乗ってきた。年末に向け、「源氏物語」の大尾も見えつつあるようだ▼平安王朝が舞台の長編は、主人公「光君」の女性遍歴を巡るドタバタ劇でもある。「空蟬」の巻では、思いを寄せる人妻宅に忍び込む。察した相手は部屋を抜け出す。残された別な女性を相手と思い込み…。理想の異性を求め続ける飽くなき情熱は、時代を超えて変わらぬ人の常だろう▼令和の世で、マッチングアプリが「いい人探し」を担う。生保の調査では、この1年以内に結婚した4人に1人が利用していた。職業や年収、容姿などを基に、はやりの人工知能(AI)がお相手候補を見つける。交流サイト(SNS)で始められるから手軽だ。出生率を引き上げたい自治体も熱い視線を注ぐ▼光君は詠んだ。〈帇木[ははきぎ]の心を知らでそのはらの道にあやなくまどひぬるかな〉。「近寄ると消える帇木に似た、あなたの心も知らず道に虚しく迷った」の意という。いずれの御時にも、人は移り気で、心は捉えどころがない。現代版の大河ロマンスを描くAIの筆遣いや、いかに。<2024・10・23>