センバツ2022 1回戦 倉敷工「攻めたぎる」貫く 延長で涙、奮闘にスタンド拍手 /岡山
最後まで「攻めたぎる野球」を貫いた――。第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第1日の19日、13年ぶり11回目出場の倉敷工は、1回戦で初出場の和歌山東と対戦し、延長戦の末に2―8で敗れた。相手の継投に苦しみながらも初球から積極的に振りにいき、延長十一回にも1点を返すなど最後まで諦めないプレーを見せた選手たちに、スタンドの生徒や保護者は惜しみない拍手を送った。【岩本一希、山口敬人、山口一朗】 先発の高山は、初回から得点圏に走者を背負いながらも落ち着いた投球でピンチを切り抜けた。スタンドで見守った父の勝次さん(44)もほっとした表情を浮かべ、「甘い球は捉えられる。低めに投げて」とエールを送っていた。 三回、2死三塁でリードオフマンの藤井が甘く入ったスライダーを見逃さす、中前に先制打を放つ。試合前日、「初球から振ってこい」と伝えたという父の孝幸さん(48)は「チームのために食らいついた結果だ」と顔をほころばせた。 選手たちは初球から勢いよく振っていったが、タイミングを合わせられない。何度も好機を作ったものの、相手の巧みな継投策に自慢の打線を封じられた。 それでも最後まで諦めず延長十一回、2死二、三塁から代打・石原の内野安打で1点を返し、意地を見せた。スタンドで必死に声援を送っていた村木雄悟部員(3年)は「全国レベルのチームを相手に最後まで攻める野球を見せてくれた」と、全力で精いっぱいプレーした仲間たちに大きな拍手を送っていた。 ◇「本気で野球」気迫の出塁 福島貫太主将(3年) 開会式で選手宣誓の大役を務め、試合では5打数1安打だった。「最強に攻める野球」を体現し、チームの精神的支柱となったが、ここまでの道のりは平たんではなかった。 父も兄も野球をする野球一家で、3人兄弟の末っ子。2番目の兄はプロ野球・中日の福島章太投手(19)だ。自身も小1から地域のスポーツ少年団で野球を始め、将来の夢はプロ野球選手だった。 だが勉強が苦手で、中学校では授業をさぼって友人と遊ぶことも。教師から県立高校は「無理」と言われ、両親にも「私立に行くなら野球は続けさせない」と言い渡された。 一時は友達と一緒に私立に行ってアルバイトをしようと考え、プロ野球選手の夢もあきらめかけた。そんな時、救いの手を差し伸べたのが、倉敷工の高田康隆監督だった。広角に打ち分ける技術と、素直で負けず嫌いな性格を高く評価してくれた。中3の秋、高田監督が熱い言葉をかけてくれた。「本気で野球せえ。俺が成長させてやる。一緒に甲子園を目指そう」。それを聞いて「自分から野球を取ったら何も残らないよな」と実感したという。学習塾を掛け持ちし、人が変わったように猛勉強をして倉敷工に合格した。 高校では中学時代の考え方から「180度変わった」。周囲への感謝の気持ちを持てるようになった。全部員の指名で選ばれた主将という立場も、自身をより成長させてくれた。「今までは自分のことしか見えていなかったが、責任を感じるようになり、周りが見えるようになった」と語る。高田監督も中学時代の福島を見て、嫌なことから逃げなくなればもっと伸びるだろうと期待していたという。「責任感と使命感が増した」と目を細める。 「やってきたことを自信にして、攻める野球を貫き通す」と臨んだ初戦。初球から積極的にバットを振るも凡退が続いた。延長十一回、「塁に出たい」という一心で内野安打の際、一塁に気迫のこもったヘッドスライディングを見せた。試合後、「(相手投手の)ストレートがすごく早く感じた。悔しいという思いしかない。これを糧にして夏に戻ってきたい」とさらなる成長を誓っていた。【岩本一希】 ◇スタミナ強化実り粘投 高山侑大投手(3年) 悔しさをばねにして励んだ冬場のトレーニングで力をつけ、粘りの投球を見せた。 昨秋は県大会決勝を除いて全て先発。182センチの長身から繰り出すキレのあるスライダーを持ち味に、「攻める野球」を支えた。しかし中国地区大会準決勝で逆転負けを喫する。「連投を投げ抜く力がなかった」。スタミナ不足を痛感した。 週2回、パーソナルトレーナーの野球部OBと、マンツーマンで1時間半のトレーニングを続けた。体重を10キロ増やし、下半身にしっかりと筋肉がついた。野球部恒例の神社階段の駆け上がりで、野手の倍の40往復をこなし、心肺機能を高めた。 精神的にも大きく成長した。以前は自己満足になりがちな部分があったという。秋の大会を経て「みんなの将来を背負っている」と考えるようになった。 「最少失点で投げきる」と臨んだ甲子園のマウンド。スライダーだけでなく、球威が増した直球も駆使して、相手打線を十回まで1失点に抑えたが、最後に連打を許した。 171球を投げても疲れを感じなかったのは、練習のたまものだと振り返る。「甲子園はすごく投げやすかった。夏は全試合完投して、甲子園に戻ってきたい」と語った。【岩本一希】 ◇おそろいハットで応援 小雨が降る中、三塁側アルプススタンドには生徒や保護者ら500人以上が早朝からバス17台で駆けつけ、声援を送った。 吹奏楽部の生徒はテキスタイル工学科の生徒が製作したチューリップハットをかぶって応援。地元の学生服メーカーが提供した服の切れ端や実習で縫ったデニム生地を使って制作し、先端に昔話の「桃太郎」に登場するサルやキジのキャラクターを縫い付けた。同科の横満璃子さん(3年)は「攻めの野球ができるよう応援したい」と話した。 スタンド最前列では野球部の田中陽登部員(3年)が懸命に大太鼓をたたいた。虫本太郎団長(3年)率いる3人の応援団員らは初めての校外応援に気合十分。野球部員らと一緒に踊り、スタンドを盛り上げた。岡田厚卓主将(3年)らラグビー部員15人はユニホーム姿で現れ、全力で声援を送っていた。 今大会では3年ぶりに吹奏楽の応援が可能になった。同校吹奏楽部は部員が少ないため、近隣の玉島商吹奏楽部が「友情応援」で加わった。ぶっつけ本番での合奏となったが、玉島商の西山華部長(3年)は「楽しんで演奏したい」と笑顔を見せていた。