『アビゲイル』から紐解くバンパイア映画の歴史とは? 考察&評価レビュー。話題のアクションホラー、魅力を徹底解説
狼男やフランケンシュタインなどの怪物と並び、世界中の人々を恐怖に陥れてきたバンパイア。その姿は、邪悪なモンスターでありながら他の怪物とは一線を画した気品とエレガントさを漂わせている。そこで今回は、9月13日(金)公開のホラー映画『アビゲイル』に紐づけ、バンパイアの歴史を紹介。その知られざる魅力に迫る。(文・中川真知子) 【写真】美しきバレリーナ吸血鬼…美貌が堪能できる劇中写真はこちら! 映画『アビゲイル』劇中カット一覧
気品あふれるモンスター、バンパイアの魅力
鋭い牙で首筋から血を吸う怪物。被害者の肩越しからまっすぐと画面のこちら側を見据える眼光は色気すら感じさせる。バンパイアは残虐でありながらエレガントで、ときにエロティシズムすら漂わせるモンスターなのだ。 9月13日公開の『アビゲイル』は、そんなエレガントなバンパイアのイメージをより強固にするだろう。なにせ主人公は、「バレリーナ吸血鬼」なのだ。若干12歳の吸血鬼アビゲイルは、自分を誘拐した犯罪者たちを、踊りながら血祭りにあげる。その様子は無慈悲かつ無邪気で、バンパイアらしくどこまでもエレガントだ。 だが、ここで少し立ち止まって考えたい。バンパイアが他のモンスターと比較して上品かつ優美な存在として描かれるのは一体なぜだろうか。本記事では、バンパイアがかくもエレガントなモンスターである理由を探る。
バンパイアの起源
バンパイアの起源は、古代ローマやギリシャまで遡ることができ、そのDNAは世界中で受け継がれている。 なぜバンパイアが生まれたのか。その理由のひとつに挙げられるのは、「当時の人々が遺体の腐敗を知らなかった」という説だ。内臓が腐敗すると目や口から腐敗液が流れ出すが、それが血に見えたというわけだ。また、ガスで膨張した腹部も、死後に遺体が何かを食べたと想像させるに十分だったことだろう。 死者の甦りに対する当時の人々の恐怖は、埋葬の状態からも読み取れる。バンパイアだと考えられていた人たちの墓を掘り返すと、切断された頭部が腹の上に置かれていたり、近くに鎌が置かれていたり、口に石をくわえさせられていたりしたそうだ。 そしてバンパイアは、18世紀になってようやく文学の世界に登場する。だが、エレガントで文化的教養の高いモンスターというイメージが世間に定着するのは、それからさらに100年後のこと。 嚆矢は、ブラム・ストーカー著の『吸血鬼ドラキュラ』(1897)だと言われている。