『アビゲイル』から紐解くバンパイア映画の歴史とは? 考察&評価レビュー。話題のアクションホラー、魅力を徹底解説
映画を席巻する“文化人”バンパイア
『吸血鬼ドラキュラ』は、ルーマニアのトランシルヴァニアに住む貴族ドラキュラ伯爵がロンドン移住を試みるも、ヴァン・ヘルシング率いる討伐隊に阻止され、滅ぼされる物語だ。 ドラキュラ伯爵は怪物でありながら人間社会に溶け込む。そして、文化的な教養を武器に社交界に出入りし、人々を魅了する。高貴なドラキュラ伯爵には、獲物も気位の高い人物でなければいけないのだ。 この設定はドラキュラ伯爵以外のバンパイアにもみられる。例えば、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)のトム・クルーズ演じるレスタトは、ピアノの腕前を披露している。同作に登場する他のバンパイアも、劇団を運営するなど、文化的な教養を持ち合わせている。 また、ウィズリー・スナイプス主演のバンパイアアクションホラー『ブレイド』(1998)でも、調度品や現代アートらしき作品が部屋に飾られ、バンパイアたちの美意識の高さが端々から感じられる。 なお、ロバート・パティンソンを大人気スターに仕立て上げた『トワイライト』(2008~2012)シリーズも、現代を舞台にした恋愛ものでありながら、クラシック音楽とダンスに精通したバンパイアの姿を描いている。
バンパイアならではの「ライフハック術」
だが、バンパイアのエレガントさは、必ずしもストーカーの『吸血鬼バンパイア』由来ではなく、バンパイアという存在そのものに起因する面も大いにある。 まず、バンパイアは金銭的に豊かになりやすい。彼らは被害者の金品を奪って私腹を肥やせるからだ。それに、超能力で人間を操れるので、ターゲットに近づき、財産を差し出すように仕向けることもできるはずだ。金品の強奪に抵抗がなければ、いくらでも財産を増やせるのだ。 しかも、バンパイアに憧れる人間を集めて労働させることもできる。彼らを恐怖で支配することも可能だ。ロンドンにいくつも物件を所有していたドラキュラ伯爵のように、投資目的で物件を買ってもいい。しかも彼らは不老不死だ。長期投資はピッタリだろう。 そして、金銭的自由が得られると人は習い事や趣味に没頭しやすくなる。純血のバンパイアはそもそも気位が高く、教養を身につけることを当然としているが、人間からバンパイアになった者が「活力がみなぎってきた」「強靭なパワーを手に入れた」などと口にしていることから、物事にたいして意欲的になれると想像できる。