天上の茶畑から詐欺商法の地獄へ…「西湖畔に生きる」で母救う息子描いたグー・シャオガン監督が追求する山水映画の道
山の斜面に広がる緑の茶畑、茶摘みにいそしむ女たち。中国映画「西湖畔(せいこはん)に生きる」(公開中)は、龍井茶の産地として知られる浙江省杭州市・西湖一帯の美しい光景とともに幕を開ける。主人公は、ある若者と、茶摘みの仕事をして彼を育て上げた母親。天上の理想郷のごとき茶畑での生活が描かれると思いきや、母と息子は詐欺商法の闇へのみこまれ、地獄を見る。伝統的な山水画の世界を押し広げて現代を描くグー・シャオガン(顧暁剛)監督による「山水映画」第2作だ。グー監督に、作品について聞いた。(編集委員・恩田泰子)
デビュー作で世界的注目
グー監督は、1988年生まれ。長編デビュー作であり、「山水映画」第1作でもある前作「春江水暖~しゅんこうすいだん~」(2019年)がカンヌ国際映画祭批評家週間で上映され、世界的な注目を集めた俊才だ。昨年の東京国際映画祭では、映画界に貢献した映画人や未来を託したい映画人に贈られる「黒澤明賞」を受賞している。
「僕が山水映画を追求する中で見極めていきたいのは、山水画を貫く理念でもある『澄懐観道』、すなわち心を澄まして道(タオ)を観ずる、ということです。その道とは、人間が何かにコントロールされている状況から、どうやって本来の自分にかえっていくか、いかにして人間の本性(ほんせい)にかえっていくか、ということです」とグー監督は穏やかに言う。
物語の下敷きは……
「西湖畔に生きる」の物語のヒントとなったのは、仏教故事で、釈迦の十大弟子の一人である目連が地獄におちた母を救う「目連救母」。映画では、詐欺師たちが主導するマルチ商法にはまった母親・苔花(タイホア)(ジアン・チンチン)を、息子・目蓮(ムーリエン)(ウー・レイ)が救い出そうとするが、一筋縄では進まない。
目蓮の父親が失踪して10年。苔花は、着飾ることもなく地道に働き、息子を育てあげたが、理不尽な理由で茶畑を追い出され、もうけ話にすがっていく。厚化粧に派手な装いで「私は新時代の自立した女性になった」とうそぶき、いさめる息子に全力で抵抗。自分を鼓舞するように踊り狂う姿には、ホアキン・フェニックスが演じるジョーカー並みに鬼気迫るものがある。