8年ぶりの『グラブル』オーケストラコンサート。神々しい演出の“どうして空は蒼いのか”など、珠玉のひとときにブラボーの声
スマホRPG『グランブルーファンタジー』(以下、『グラブル』)の楽曲を集めた8年ぶりのオーケストラコンサート“GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-”が2024年9月21日(土)と22日(日)の2日間にわたって全4公演が開催された。 【記事の画像(19枚)を見る】 ゲストボーカルに東山奈央さんや霜月はるかさん(※サプライズ登場)、コンポーザーの成田勤さんらが参加し、この日オーケストラが初公開となった10周年記念シナリオイベントフェニックス戦BGM『天と光、死と生』など、『グラブル』ならではの美しい演出にも注目が集まった21日夜公演の模様をお届けする。 2016年の“SORA NO KANADE”以来、約8年ぶりの開催となった“グラブルオーケストラ”。今回の会場となる有明・東京ガーデンシアターは、2020年に開館したばかりのイベントホールで最大収容人数は8000人規模、4層のフロアで構成され、どの席からもステージが見やすい立体的なホールに、現地に参加した騎空士たちのテンションも大いに上がったことだろう。 会場ではグッズやコラボドリンク・フードの販売のほか、『グラブル』イラストチームによるイラストの展示コーナーなども。筆者はルリアとビィの“アップルブルーソーダ”(700円/税込)とオロロジャイアの“バタフライピーソーダ”(700円/税込)を購入。購入特典として1会計ごとに1枚、キービジュアルに登場したキャラクターのコースターを選択することができた。外はまだまだ残暑が続くが、蒼空のように清涼感のある味わいと色合いに気持ちが落ち着いていく。 開場前のナレーションでは、サンダルフォンが習いたてのヴァイオリンで意外な才能を発揮する様子や、勝手にコンサートホールの火災報知機のボタンを押そうとしてオロロジャイアを慌てさせるカシウスとガレヲンの姿などを耳で楽しむことができた。キャラクターたちのおなじみのやりとりを聴くだけで空の世界へと足を踏み入れたような気になるのも『グラブル』の軌跡の為せる業のように感じる。 第1部の最初の楽曲は『フレイメル島 -太古の工廠-』。トランペットや鉄琴といった楽器による勇壮な旋律がホールを満たしたかと思えば、曲の中盤からはボンゴやハープなどが主軸となって奏でる美しい旋律へと移り変わっていく。鉄鋼業で栄えるドラフ族の営みと、溶岩が絶え間なく流れるバルツ公国の雄大な自然とをオーケストラで多面的に奏でる構造は見事だ。 1曲目からオーケストラの醍醐味が詰まった至福の時間に膝を打つが、畳み掛けるように2曲目“天に散りし覇者との邂逅”。エクストラクエスト“討滅戦”の光景とともに記憶にしっかりと刻まれている騎空士は多いだろう。天まで響きわたるような怜悧なピアノの音色に弦楽器と管楽器が抑揚をつけて生み出す厚い音の層は、まさにバトル曲ならではの魅力に溢れていた。 つぎはメインクエスト63章“黒騎士”の戦闘BGMとしても印象深い『人間との戦い』。黒騎士(アポロニア)とオルキスのこれまでの歩みを振り返るような大スクリーンの映像とともにしっとりとした旋律から始まったかと思いきや、くすぶる火種が燃え上がるように一気に勇壮な音の奔流が押し寄せてくる。映像には黒騎士とオルキスのほかに、ラカムやオイゲン、フリーシアといったメインクエスト第1部の主要人物たちも登場し、眺めているだけでエルステ帝国を巡る戦いの軌跡を黒騎士に感情移入しながら追うことができた。 オーケストラコンサートの夜の部で進行を担当したのはダーント役の星野貴紀さんとユイシス役の立花理香さん。幕間ではゲストとして、『グラブル』のコンポーザーを務める成田勤さんも登場し、『グラブル』10周年のタイミングが自身の作曲家人生20周年とも重なり、感慨深いものがあるとコメント。また、『人間との戦い』についても、2016年の“SORA NO KANADE”で披露された際はまだタイトルが決まっておらず、福原哲也クリエイティブディレクターが“魔物や星晶獣ではなく人間どうしの衝突”を直接想起させるような名前をつけたことで一気に解像度が高まったという裏エピソードを語っていた。 『バトル4』はイベント“四象降臨”の戦闘BGMを飾るロックナンバーだが、作曲家の中川峻彰さんがクラシックスタイルに大胆なアレンジ。完成した楽曲には成田さんも大いに感動したそうで、メールで返信する際に“お世話になっております。素晴らしい”とあいさつの文面まで変えざるをえなくなったそう。実際、オーケストラで聴く『バトル4』は臨場感がものすごく、トランペットやホルンによる主旋律は威風堂々、壮観だ。 『ライヒェ島 -人住まう魔窟-』には篠笛の高桑英世さんと和太鼓の内藤哲郎さんも参加。戦闘BGMのアレンジが続いて気持ちが高揚していたところに、詫び寂びを感じさせるような静かなこの曲が来るという落差がまた心地よい。それこそサウナイベントでもおなじみの“ととのった”状態に入ったかのようだ。なお、高桑さんはゲーム内のBGMでも篠笛を担当されていたそうで、“あのなじみ深い笛の音色”をオリジナルで聴けたというだけでも騎空士としてはなんだかテンションが上がってくる。 続いて演奏されたのが『ナル・グランデの罪』。こちらはメインクエスト第110章において、ナル・グレートウォールとの死闘を彩った楽曲で『ライヒェ島 -人住まう魔窟-』に続けることで、メインクエスト第2部を自然と思い起こさせるような心にくい作りになっていた。カインとラインハルザとの一騎打ちやナル・グレートウォールでの決戦など、名場面を凝縮したかのようなスクリーンの映像も鮮烈で、緩急のある同曲の構成とシンクロすることで、より気持ちを没入させてくれた。 メインクエスト第1部、第2部の印象的な楽曲が来た――となれば、メインクエスト第3部の楽曲ももちろん続かないわけにはいかない。まずは『アウライ・グランデ』だ。ゲストとして参加したコンポーザーの成田さんがピアノのソロで口火を切ると、弦楽器や管楽器も荘厳な演奏で美しくも寂寞感のある旋律を形作っていく。 そして、第1部のラストに登場したのが蒼いドレスを身にまとったルリア役の東山奈央さん。指揮者の栗田博文さんが油断した隙に(?)タクトを持ち去ると無軌道な指揮を始めて、ステージ上はメチャメチャに……。進行役の星野さんが“それも自由だ”とダーントの声色で肩を持つひと幕もありつつ、再びタクトが栗田さんの手に戻ったところで和やかなやりとりは終幕。 ここで東山さんが登場したということは、もちろんつぎの楽曲は『Lyria』。ゲストボーカルの東山さんの歌唱は、いつものルリアのほんわかしたかわいらしい声とはひと味違う、繊細ながらも力強さに溢れており、まるで“語り部による物語の伝承”を耳にしているかのように錯覚させられる。前曲に引き続き成田さんの演奏するピアノやコーラス隊の美しい歌声と合わさることで、よりドラマチック&エモーショナルな側面を増幅。ここまで演奏されてきた楽曲も含め、メインクエストをもう一度読み返したいと感じた騎空士も多かったのではないだろうか。 20分の休憩を挟んだ後、コンサートは第2部へと進む。メインクエストを彩る楽曲が中心だった第1部とは趣向を変えて、こちらはイベントや最近追加されたマルチバトルを中心にした構成に。 まずは8周年記念シナリオイベント“星のおとし子、空のいとし子”のメインBGMである『命のカタチ』。触れれば消えてしまいそうなほどに繊細なピアノの旋律が特徴的で、静かに心に染みてくるような楽曲だ。ほかの楽曲に比べると演奏時間も短めだったが、儚さや美しさがそこにしっかりと織り込まれていた。 立て続けに、7周年記念シナリオイベント“STAY MOON”のメインBGMである『Last Advent』。『グラブル』の中でもとりわけSF的な要素が強いシナリオイベントなだけに、原曲は周期性のあるリズムで生み出されるエレクトロサウンドが持ち味。 これをどうオーケストラに落とし込むのか気になったという方も多いかと思うが、フルートや鉄琴、スネアドラムなどで電子音を巧みに再現。ステージ上のスクリーンにはカシウスを始めとするシナリオイベントのキーパーソンたちの姿が映し出され、規則的で心地よい旋律とともに月面での激戦の記憶を辿っていく。まるで映画のポスターと見紛うようなビジュアルと音の奔流に筆者もすっかり圧倒されてしまった。 幕間に登場した成田さんは、つぎの楽曲である『ユグドラシル・アルボスマグナ』についても解説。福原さんから“バトルらしからぬアレンジにしてほしい”というオーダーを受けて作ったというエピソードも披露された。 今回のオーケストラアレンジは『Last Advent』に続き、作曲家の東大路憲太さんが担当。フルート、ヴァイオリンといった楽器が幻想的で穏やかな音でホールを満たしていったかと思いきや、中盤の転調(バトルでいうとユグドラシル・アルボスマグナのHPが40%を切ったあたり)で押し寄せてくる音の洪水が気持ちを大いに盛り上げてくれる。最後はハープなどの癒されるような旋律で締めくくられる点もオーケストラアレンジならではの大きな魅力となっていた。 そして、2023年に実装されたばかりのマルチバトル“天元たる六色の理”の戦闘BGMである『Dragon's Circle -Hexachromatic-』。ほかの六竜の戦闘BGMを組曲のように展開することからもクラシックオーケストラとの親和性が高い構成ではあるものの、そもそも六竜の楽曲はバンドサウンドやエレクトロサウンド全開の曲。しかしながら、これもオーケストラにうまく落とし込んでおり、目まぐるしくも心地いい演奏がホールを包み込み、緊迫感のある戦闘風景へと誘っていく。もはや見事というほかない。 さらにたたみかけるように、10周年記念シナリオイベント“HEART OF THE SUN”よりフェニックスとの戦闘BGM『天と光、死と生』。『グラブル』を代表する名曲のひとつ『大星晶獣との戦い』を節目のタイミングに合わせてアレンジした同曲は、イベントの世界観そのままに壮大なスケール。作曲家・小林洋平さんによるオーケストラアレンジでもその魅力がいかんなく発揮されていた。 楽曲に合わせてフェニックスやバハムート、サンダルフォン、ラジエル、メイガスなどの姿が大スクリーンに映し出され、中にはアブラメリン、ファルハナ、フェニーの幸せそうな光景も。その3人の姿が戦火によって焼け落ちていくという演出がまた美しくも残酷で胸を打つ。 コンサート第2部のラストを飾ったのは『ロボミ』。王道ロボットアニメソングへのリスペクトが詰まった同曲では、指揮者の栗田さんも会場のクラップを煽り、ホール全体で勇壮なメロディーを奏でる形に。ここまでの演奏で高揚していた想いをここぞとばかりに両手に込めた騎空士も多かったのでは。ゴッドギガンテスとアガスティアの決戦のビジュアルとともに、楽曲がクライマックスへと向かっていくさまはまさに壮観だった。 観客らの盛大なブラボーコールに応えて、ここからはアンコールに突入(MCでは星野さんが“アサルトタイム”と表現し、その見事なたとえにざわめきも!)。 まずは『アウギュステ列島 -白沫の瀑布-』。癒されるような原曲の清涼感はオーケストラアレンジによってさらに増幅され、聴いているだけで心の緊張がほどけていくよう。フルートやホルンによる美しい主旋律に弦楽器も加わって奏でる雄大な旋律に、砂浜に打ち寄せる波の音を想起させるマラカス、夏の終わりの物悲しさをイメージさせるピアノなど、各楽器が見事に調和して清らかなアウギュステの景観を形作っていた。ここまで美しい光景が見えると、とてもオモシロ海産物たちが生息しているとは思えなくなりそうだ。 アンコール2曲目はゲストボーカルにサプライズ登場となったシンガーソングライターの霜月はるかさん、そして、ピアノに成田さんを招いての『ローズクイーン』。いまでこそ『グラブル』ではボーカルの入ったバトルBGMが数多く楽しめるが、そのパイオニアともいえる存在で、とりわけ銀天の輝きを求めながら周回した騎空士にとっては印象深く焼きついているであろう一曲だ。 高貴で幻想的な霜月さんの歌声とオーケストラの勇壮な演奏が見事に融和し、会場のボルテージは急上昇。霜月さんも幕間で“もともとの楽曲にもストリングスが入っていたので合うなとは思っていたけどメチャメチャ違う”とオーケストラならではの手応えに触れ、成田さんもそれに同意しながら“上下の緩急はオーケストラならでは”と魅力を語っていた。 アンコール、もといアサルトタイムも残すところはあと2曲。ルシフェル(声:櫻井孝宏)の“どうして、どうして空は蒼いのか……”という印象的なモノローグから楽曲へとつながっていくという心憎い演出がなされていたのが、5周年記念シナリオイベント“000 どうして空は蒼いのか Part.III”メインBGMである『どうして空は蒼いのか』。野口明生さんによるイーリアスパイプと高桑英世さんによるティンホイッスルというケルト楽器の演奏が加わることで郷愁漂うような温かみのある音色が生まれ、ホールを清廉な光で満たしていく。 ルシフェルやルシファー、サンダルフォンの姿をつぎつぎと映し出すスクリーンの映像もまた壮麗で、楽曲のラストには中庭のような場所で淹れたてのコーヒーを前に座っているルシフェルの新規ビジュアルも……。この圧巻の演出に感極まってしまった騎空士も多かったことだろう。 そして、コンサートのラストを飾るのはもちろん『メインテーマ』。ハープとフルートが物語を始めるかのように音を紡ぎ、一気に空に向かって駆け出すかのように多くの楽器が加わって奏でられるおなじみのメロディー。あらゆる楽器に見せ場がある構成も、これまでの10年間で出会った多くの仲間たちの活躍と被るようで、なんとも胸が躍る。ステージ上のスクリーンにもこれまでともに冒険してきた六竜や十天衆など仲間の姿がつぎつぎと映し出され、耳にも目にも楽しい。フェルルカ、ネモネ、メルゥのハレマエや、スツルムにお尻を刺されるドランクの姿などもしっかりと収められていて、筆者も自然と笑顔になってしまった。 こうして盛大なブラボーコールとともに幕を閉じた21日夜の部の公演。改めて『グラブル』の楽曲とオーケストラとの親和性を感じさせられる珠玉のひとときだった。東京フィルハーモニー交響楽団による珠玉の演奏はもちろん、オーボエのすぐ横に“ゆるガレヲン”のぬいぐるみがひっそり置かれているなど、細やかな愛情を感じられたのもイチ騎空士としてはうれしいポイント。 また、今回のコンサートを通じて、指揮者の栗田博文さんへ視線が釘付けになってしまった方も多いのではないかと筆者は推測する。第1回シベリウス国際指揮者コンクール(フィンランド)の最高位に輝いたこともある栗田さんは、シネマオーケストラやアニメやゲームのオーケストラを数多く担当してきた名指揮者。 精密な指揮でオーケストラをまとめ上げ、ときには飛び上がるようなダイナミックな仕草で楽曲の魅力を引き出し、さらにはアンコールでも“ブラボー”コールを煽るなど、とにかく最後まで騎空士たちを楽しませてくれていた。オーケストラというとどうしても格式高いイメージを筆者は持っていたが、栗田さんの親しみやすい一挙手一投足がそういった心のハードルを取り払ってくれたようにも感じる。 全4公演を通じて、さまざまな楽曲で空の世界の旅路を思い起こさせてくれた“GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-”。オーケストラでしか味わえないこの感動がいつかまた来る日を心待ちにしたい。 “GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-”セットリスト 【第1部】: 01. フレイメル島 -太古の工廠-02. 天に散りし覇者との邂逅03. 人間との戦い04. バトル405. ライヒェ島 -人住まう魔窟-06. ナル・グランデの罪07. アウライ・グランデ08. Lylia 【第2部】 01. 命のカタチ02. Last Advent03. ユグドラシル・アルボスマグナ04. Dragon's Circle -Hexachromatic-05. 天と光、死と生06. ロボミ 【アンコール】 01. アウギュステ列島 -白沫の瀑布-02. ローズクイーン03. どうして空は蒼いのか04. メインテーマ