マンチェスター・ユナイテッドの今季は“最悪”だったのか。不安は開幕前から…。それでも残した希望【シーズン総括コラム】
今季のマンチェスター・ユナイテッドは、怪我人が続出して、絶望的にボロボロな状態だった。その結果、プレミアリーグ史上最も低い順位である8位という結果で終えた。この状態そのものに目をつけるのであれば、最悪のシーズンだったと言える。一方でそんな中でもFAカップで優勝出来たことは素晴らしい結果であり、望外の終わり方だった。その結果、評価の難しいシーズンとなってしまった。ではそもそも何故こうなってしまったのだろうか。(文:内藤秀明) 【動画】マンチェスター・ユナイテッドの逸材が決めたスーパーゴール!
●怪我人が続出…。戦術もボロボロに まず前提として、今シーズンの怪我人続出は、昨季の過密日程から問題が始まっていた。昨シーズンはプレミアリーグで38試合を戦っただけでなく、FAカップとカラバオカップの両方で決勝まで進出したこともあり、国内だけでも年間で50試合を戦っていた。そこに加えてUEFAヨーロッパリーグ(EL)で12試合戦い、クラブとして62試合を消化。年末にはワールドカップに参加した選手がいたことも考えれば、異常な試合数だった。 これだけでも今シーズンは不調になる大きなリスクがあったにも関わらず、マンチェスター・ユナイテッドのコーチ陣はプレシーズンマッチに、高い強度の練習を選手たちに課した。昨年11月に英紙『ガーディアン』が公開した記事によると、エリック・テン・ハフ監督がプレシーズンで選手たちを酷使したことで、シーズン後のような疲労感でシーズンを始めることになったと一部の選手たちは不満を感じていたそうだ。 筆者もプレシーズンマッチの映像を全試合見たが、明らかに選手たちの身体は重く、この状態でシーズンに臨めるのか、不安に感じたことを覚えている。勝った試合でも、内容が悪いものが多かったのだ。 そしてその嫌な予感は的中した。シーズンに入ると全ポジションで怪我人が続出し、多い時は16人もの選手が戦線から離脱した。この怪我人の数は異常だ。データサイト『Opta』によると、0-4で敗れた第36節クリスタルパレス戦の時点でユナイテッドの今季の公式戦の失点数は81にまで増加。これは1976/77シーズンに記録した失点数と並び、史上最多の記録となった。もちろんこの後も失点したため、最終的に85まで失点数は増えた。 最終的に怪我人が続出した原因は、前年の過密日程やメディカルの責任、運の要素なども大きかったのだろう。ただ少なくともプレシーズンに負荷をかけすぎたことも、一因だったのだ。 ●怪我人続出の中で輝きを放ったのは? こうして怪我人が大量発生したことで、日々のトレーニングでメンバーは入れ替わることが多かった上に、シーズン中はミッドウィークに試合が入ることが多く、ろくに戦術練習が出来なかったことは容易に想像できる。 しかもプレシーズンマッチでは、最終ラインとボランチの選手がかなり流動的に動き回るビルドアップを作り上げようとしていたにも関わらず、その最終ラインに怪我人が続出したのも不運だった。今季、戦術的な上積みが出来なかったのは、言い訳の余地があるだろう。 このような苦しいシーズンの中で、輝きを放った選手もいた。そのうちの一人はディオゴ・ダロトだ。クラブが選ぶ年間最優秀選手に輝いたポルトガル代表DFは、ボロボロの最終ラインの中でリーグ戦に36試合出場するなど、ほぼ年間稼働した。 ただしこれは偶然ではない。米メディア『ジ・アスレチック』によると、2020/21シーズンにACミランにレンタル移籍したダロトは、イタリアのレジェンドであり、当時ミランでテクニカル・ダイレクターを務めていたパオロ・マルディーニから大きな影響を受けた。若いサッカーファンに補足をすると、マルディーニはACミラン一筋のキャリアで41歳まで現役を続け、代表戦含めて1028試合もの試合に出場した鉄人である。加えてダロトは、ストイックなことで有名なユナイテッドのOBクリスティアーノ・ロナウドとも、2021年の欧州選手権以降の友人関係を続けており、彼との会話からも日々学びを得ているという。 このように複数の偉大な先輩を見習ったダロトは、日々、食事や睡眠などの体調管理に気を配るようになった。その結果、今季、フィジカル的に厳しいシーズンだったが、大きな怪我をすることなく、高いパフォーマンスを維持し続けたのだ。 ●若手選手も躍動 他にも今季から主将を務めることになったブルーノ・フェルナンデスも、最高のパフォーマンスを披露した。リーグ戦には35試合に出場して10ゴール8アシストを記録。データサイト『Sofa Score』の年間平均採点は7.75点という高い数字を記録しており、これはプレミアリーグ全体で5位という数字である。毎試合、得点直結のプレーを見せ続け、守備でもハードワークを怠らなかった。 何より21歳のデンマーク代表FWラスムス・ホイルンド、19歳のアルゼンチン代表FWアレハンドロ・ガルナチョ、19歳のイングランド代表MFコビー・メイヌーら、若手選手たちが躍動して、重要な試合でスタメン出場しただけでなく、重要なゴールをいくつも記録した。実際FAカップの決勝はガルナチョとメイヌーの得点で勝利を収めた。 特にガルナチョに関しては、プレミアリーグ13節で記録したオーバーヘッドシュートが、プレミアリーグの年間最優秀ゴールを受賞するなど、世界中のサッカーファンの記憶に残るようなプレーも披露することに成功した。 カゼミロやマーカス・ラッシュフォードなど、苦しむ主力選手も一定いたが、若手の能力の上積みがあったことは、間違いなくポジティブだ。 ●ストレスの溜まる試合は多かったが… 外部からわかる範囲で総括すると、リーグ戦は14敗して8位という悲惨な結果になったが、FAカップで優勝できて若手も育った。一皮剥けてワールドクラスに育った中堅もいる。こう振り返ると良いシーズンではなかったものの、最悪のシーズンでもなかったというのが実際のところだろう。 現在、大きな焦点となっている監督の処遇に関しては、外部からは見えにくい選手との信頼関係や、怪我人続出の責任の所在などが関係してくる。そのあたりの責任の所在は今後のクラブ人事から間接的に見えて来るはずだ。 最後に、一人のユナイテッドファンとしての感情の話で締めくくると、今季は本当にストレスの貯まる試合が多かった。タイトルを獲ったとしても、負け数が多すぎたため感情面で計算をするなら、大きくマイナスのシーズンだった。 ただし終わってしまえば、未来のある若手選手が台頭し、CEOやテクニカルダイレクターが代わるなどフロント陣も大きく変わっていく現状が残った。あとはスポーツ・ダイレクターさえ上手く収まればいうことなしだ。 まだまだ未完成なチームであり、クラブであることは間違いない。ただ来季に目を向けると未来はどうやら明るそうだ。来季も色んな意味で魅力的なマンチェスター・ユナイテッドで一喜一憂出来そうだ。 シーズンが終わったところだが、来季の開幕が楽しみでならない。 (文:内藤秀明)
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