この道はだれの道?|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #34
この道はだれの道?|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #34
山を歩くひとは必ずそれを利用するもの、それが登山道である。以前、山小屋に勤めていたころ、あちこちの登山道を整備していたのがなつかしい。山によっては登山道管理をするのが私だけという場所もあったので、たまにその登山道の話題が出たりすると妙にうれしく思ったりする。それはそうと、そもそも「山」とはだれのものだろうか。10人いれば10通りの答えが出る話ではあると思うが、私なりの見解を示そうと思う。 編集◉PEAKS編集部 文・写真◉高橋広平。
この道はだれの道?
ライチョウが生息している山域は、国が定める国立公園「特別保護地区」がほとんどである。ざっくりとした定義としては、環境の現場保護や採取禁止など、貴重な自然環境を保護・維持するための決まりが敷かれた場所である。 普段、ライチョウを探して闊歩している北アルプスなどを挙げれば、国が指定する以前より地元の猟師さんなどが山に入るために拓いた道が現在の登山道として機能していることが多い。現在は点在する山小屋などが、担当する山域の登山道を整備していることがほとんどで、なかには廃道になったりして幻の登山道と化しているところもある。古書店などで古い地図を見つけたときにまったく知らない登山道の記録などを見つけてしまった日には、それほど興味を示しているわけでもない私ですら小躍りしてしまうロマンがある。 そんな山に入る者ならば、かならず利用する(場所によってはかならず利用しなければならない)登山道であるが、かならずしも人間だけが使うものではなかったりする。 たまにSNSなどで「ライチョウが道案内してくれてる」などの文言を見かけることがあるのだが、あえて言わせていただくとライチョウは先導もしなければ道案内をしてくれることもない。 彼らにベタ惚れで種の垣根を打ち破り、個人と個人としてライチョウと接している私ではあるが、洞察のうえで彼らがどう考えどう動きたいかを推察することができるからこそ、楽観的な妄想やご都合主義な考えで見ることはしていない。 例えば、見方によって彼らが人間に向かって歩を進めるという状況も発生することもあるが、それはたまたまその先に用事があるだけである。わざわざ人間にすり寄ってくることはない。地域的に人間を利用して捕食者の接近を回避しているであろう個体群も見受けられるが、かならず彼らなりの合理的な理由をもとに行動している。 人によってはそんな夢も希望もない言い方を……と思われるかもしれないが、それが現実である。そもそも彼らがそこに居るだけで夢や希望が充足している状況なのでなんの問題もない。 さて、折に触れて言っているのだが、ライチョウをはじめとする、もともとそこにいる原住民たる存在がもっとも尊重されるべき対象であると私は思っている。 現代社会において土地管理や自然保護の観点から、事実上人間が管理しているわけではあるが、良くも悪くもそれはあくまで後から出てきたよそ者が勝手に制度に当てはめているにすぎない。例え話であるが、自宅の庭に知らない人がアイゼン装着して歩き回っていたらどう思うか……誇張した表現ではあるが、つまりそういうことである。ライチョウにとっては山が自宅であり庭なのだ。そこに立ち入る者はだれであれ、そこに住む動植物に敬意を払い、インパクトを最小限にするのがものの道理である。 とまあ、少々強めの言い方をしてはみたが、詰まるところ「相手の立場になって考えて行動しましょうね。ここ、他人の家の庭みたいなものだから」ということである。それが巡り巡って彼らの愛おしい姿を見られたり、素晴らしい体験ができたりすることに繋がっていると思う。 今回の一枚は、作品というよりは記録写真のひとつである。 登山道のまんなかで砂浴びをするライチョウ家族の姿をおさめた、印象的なものなのでセレクトした。このようにたまに一時通行止めになっている登山道であるが、ここは彼らの住処と観念してその愛おしい振る舞いを鑑賞するのも一興ではないかと思うのである。ちなみにライチョウはよく登山道を利用する。なぜならば大変歩きやすいからだ。種も違えば言葉も通じない相手ではあるが、理解しようと思えば案外すんなり納得できることは多いものである。
今週のアザーカット
先週末の無印良品さんでのワークショップをはじめ、じつはちょこちょこイベントが発生します。7月29日からはコチラの新聞社さんとの計画がスタートする予定です。情報公開したくてうずうずしているのですが、守秘義務があるので匂わせ画像での表現となりますが、どうかご容赦くださいませ。 ライチョウを取り巻く状況が良くなりますようにとイベントがはじまります。 ▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら。 ▼PEAKS最新号のご購入はこちらをチェック 。 編集◉PEAKS編集部/文・写真◉高橋広平
PEAKS編集部