1日1万歩も歩かなくても健康にいい、座る時間が長めでもOK、最新の研究で明らかに
歩数を増やすほどリスク低減
その結果、座る時間が長い人も短い人も、歩数を増やすと、リスクが統計的に同じ程度減ることがわかった。さらに、1日1万歩程度までは、歩数が多いほど心血管疾患や死亡のリスクが大きく減るという関係が見られた。たとえば、座る時間が長い人の場合、死亡は1日9000歩、心血管疾患は9700歩でリスクが最小となった。 心血管疾患リスクを下げる効果は、座る時間がどちらのグループも1日4300歩程度から確認されるようになり、座る時間が長い人たちでは10%低下した。歩数が1日9700歩では、その効果も21%に倍増した。 死亡のリスクも同様に、座る時間が長い人たちでは1日4100歩歩くと20%下がった。歩数が1日9000歩では、リスク低下率は39%とほぼ倍増した。1日6000歩ほど歩くと、座る時間の長い人たちの死亡リスクは、短い人たちと同じ程度にまで下がった。 米ニューヨーク市のモンテフィオーレ医療センターの心臓科医マリオ・ガルシア氏によると、平均的な米国人の歩数は1日4000歩ほどだという。つまり、健康増進の余地はたっぷりあるということだ(編注:厚生労働省が行った2019年の国民健康・栄養調査によると、日本の成人男性の平均歩数は1日6793歩、成人女性は1日5832歩)。 「(新型コロナウイルスの)パンデミック後にあたる現在は特にリモートワークが増えて家で過ごす時間が長くなっているため、体を動かしていない時間を意識して、ウォーキングのようなシンプルな運動でその分を補うことが重要です」とガルシア氏は言う。 氏によると、最も大きな恩恵を受けるのは60歳以上の人々だという。これは、加齢に伴う体力の衰えが高齢になるほど加速するためだと考えられる。
1日1000歩増やすのは難しくない
今回の研究から得られる重要な知見は、座る時間を減らせない人でも、1日の歩数を増やすことで恩恵を受けられる点だとアーマディ氏は言う。 「最近はウェアラブルデバイスの普及が進んでいるため、1日の歩数を手軽に測って記録できるようになりました」 しかし、歩数を2000歩から一気に1万歩に増やす必要はないと、グッドウィン氏は言う。実際、氏が行っている研究では、参加者に1日の平均歩数を1000歩増やすよう勧めている。2020年6月に学術誌「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に発表された、17件の研究を対象としたレビュー論文では、1日に1000歩増やすことにより、その後4~6年にわたり心血管疾患および死亡のリスクが減ることがわかっている。 ウォーキングが好きになれない人は、別の方法で歩数を増やすのがよいと、グッドウィン氏は言う。 たとえば、1日のどこかで少しずつ歩数を稼ぐために、駐車場の中の遠い位置に車を停めたり、数階分だけエレベーターの代わりに階段を使ったり、電車やバスを少し早めに降りて残りを歩いたりするのもいいだろう。1日に1000歩増やすのは、ほんの10分ほど歩くだけで達成できるため、歩ける人ならほぼ誰でも1日のどこかで行えるだろうと、グッドウィン氏は指摘する。 歩数を増やすもうひとつの方法は、1日の歩数ではなく週ごとの歩数に注目することだ。米バンダービルト大学医療センターの心臓科医イバン・ブリテン氏によると、今回の研究と同じ対象集団から得られた別のデータからは、「週末だけ運動をする人たちも、毎日継続して体を動かしている人と基本的に同じ程度」の効果を得られることが示されているという。 ただし、着実に続けることが重要だと、氏は指摘する。特に気をつけたいのは、歩数を測る機器を使い始めたときの新鮮な気持ちが薄れてきた後だ。なぜなら、人は自分が観察されていると意識すると、最初のうちは行動を変える場合が多いからだ。数年にわたって人々の活動を追跡した、未発表の研究からは、週末に運動する習慣を始めた人のうち、数週間後に高い活動レベルを維持できていたのは、約半数にとどまっていたことがわかっている。 ブリテン氏はまた、1人あたりの観察期間が1週間だった今回の研究によって、歩数を増やせば座りっぱなしの習慣による影響を相殺できるかどうかの議論に決着が着くとは考えていない。 「3~7日間のモニタリングが、数週間、数カ月、数年にわたるその人の典型的な行動を反映していると考えるのには無理があります」ブリテン氏は言う。「一部の人たちではそうかもしれませんが、それが全員に当てはまるとは思えません」