「腐敗した体にウジ虫が…」夏場に孤独死した78歳の父。1か月放置された“アルコール依存と認知症”の最期
変わり果てた父との対面はできず
孤独死した老人は、最初は事件扱いだ。事情聴取を受けることになる。家族関係を答えた。 「父はアルコール依存症だったので、父の離婚後、父と私・母と私・姉と私・父の妹と私・父の元同僚と私は連絡を取っていたけど、父自身は全員から拒否されていました」とそれぞれの電話番号を教える。 母は一昨年、ガンで闘病の末、他界している。警察官より「そうなんですね。ご両親の離婚後、田口家で全員と連絡が取れるのは、あなただけだったんですね。あなたが田口家を回していたんですね。お母さんに続き、お父さんまで。本当にお疲れさまでした」と言われた時に、初めて涙が出た。両親の離婚後、壊れた家族をつないでいたのは、筆者だったのかもしれない。 夏場は高齢者が死ぬ。「腐敗した遺体でいっぱいだから」という理由で、安置室には入れてもらえなかった。「トラウマになるかもしれないし、やめたほうがいいのでは」と言われたが、どうしても父の最期の姿を見たかった。写真で見た顔には、取りそびれたウジが1匹ついていたが、その骨格は間違いなく父だった。 父の「お金を貯めた」は嘘で、父の部屋の電気は止まっていて、懐中電灯で生活していたようだ。だから、クーラーはついていなかった。食事したあとはなかったが、缶ビールの空き缶の山だけはあったという。父らしい死に様にホッとした。遺品も匂いがひどく引き取れる状態ではなく、部屋にはすぐに特殊清掃業者が入った。
介護は「緩慢な死」の受容
母が亡くなった時もそうだったが、父の死に対しても、大きなショックはない。ガンの闘病に付き添うことも、認知症の介護も親の「緩慢な死」の経過に立ち会うことだ。いきなり交通事故死するのと違い、徐々に「親の死」を受け入れていく作業だ。 それなので、検視結果が出て、葬儀がいつできるかも分からない状態でも、友人・知人と「迷惑な親の最後の子孝行」な話として、笑いながらネタにもできている。前出の坂本氏からも「すばらしい最期ですね。5万円届けに来るところなんて、なんとダンディだろう。良い介護ができましたね。胸を張ってください!」とのメッセージをもらう。 「世の中的にはエアコンのない部屋で孤独に腐敗という強烈なエピソードの結末を『介護が不適切だった』と批判する人は少なくないでしょう。でもそんな社会の同調圧力に負けて無理に施設入所に踏み切っていたとしたら、最期まで好きな酒を飲んで、娘と孫と仲良しでいられることはできなかったでしょう」(坂本氏) 悔いはない。父が元気な頃の口癖は「僕はワイドショーのプロデューサーが長かった。お前にも自分のことはいいことも悪いことも、全て書いて欲しい。それが人様を飯のタネに食ってきた人間の責任だ」だった。現在12歳になる息子と父の写真を見ながら、1人、献杯をした。天国では好きなだけ酒を飲んで欲しいものだ。 <取材・文/田口ゆう> 【田口ゆう】 ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
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