「腐敗した体にウジ虫が…」夏場に孤独死した78歳の父。1か月放置された“アルコール依存と認知症”の最期
介護は残される遺族のためのセレモニー
父のアルコール問題で嫌な思いをしていた筆者は、弱った父を虐待しない自信がなかった。 同じく「「家族が壊れる…」認知症の親の介護、当人の“病識の低下”が悲劇の原因だった」(日刊SPA!)で話を聞いたこともあるので、認知症ケアの専門家で『認知症の人の「かたくなな気持ち」が驚くほどすーっと穏やかになる接し方』(すばる舎)の共著者で株式会社くらしあすの坂本孝輔氏に相談した。 彼からは「介護は残される遺族が自己満足して、死を受け入れるためのセレモニーだよ。田口さんがちょっといいことをしたと思う程度のことをお父さんにしてあげたらいい」と言われた。その言葉が救いになった。「ちょっといいことをした」と思える距離感ならば、優しくできそうだ。 そうして、筆者の介護生活は始まった。意外にも穏やかな1年だった。父は酒をやめなかったし、介護事業所が入ることは頑なに拒んだが、「精神病院で廃人になるか」と言ったこともあり、酒量は大幅に減っていた。
ふらりと現れた父がくれた5万5000円
筆者を他人と間違うこともあり、「本当にご親切に。ありがとうございます」と深々と頭を下げることもあった。過去の出来事を許せそうなほど、おだやかな日々が過ぎて行った。失禁等があったものの、父は筆者宅にも孫の顔を見に通う程度には、元気だった。 2024年7月15日、自宅に父がふらりと現れた。認知症になってから、父が筆者宅にアポなしで訪ねてくることは何度かあった。その時はいきなり「貯めたんだ」と言い、5万5000円を差し出してきた。 父の退職後に、お金の無心をされることはあっても、お金をもらうことは少なかった。ラッキーストライクを吸いながら、孫の運動会の動画を観て、「見に行きたかった」と言う父の表情は、とても幸せそうだった。最後に「今後の人生、男にだまされないように気をつけなさい」の一言を残し、父は帰宅した。
警察からの電話と事情聴取
2024年8月10日夜、知らない番号から何度も着信がある。下四桁は「0110」。あとで警察官から「警察署の電話の下四桁は0110ですので出てください」と言われるまで、知らなかったが、警察署からの電話だった。無視していると、22時に警察官が訪ねてきた。 「お父さんが自宅で亡くなっていました。死後、時間が経っているので、腐敗した状態です。事件性はないと思いますが、事情聴取させてください」と父の死を知らされる。 筆者は7月17日に、父に5万5000円のお礼の電話をしているが、その時には、電話はつながっていない。その後、1日2回ほど安否確認の電話をしているが、この暑さだし、そろそろ様子を見に行こうと思った矢先の出来事だった。 今は戸籍謄本も電子化している。筆者は離婚後、父と分籍しているが、母も姉も同様だった。身元を確認できるものがなかったため、警察の取調室で、DNA鑑定をすることになる。