「ヘイッ、ブラック!すこし口がすぎるぜッ!」「シャーラップ‼」ブッチャーとブラック・タイガーが東海道新幹線で大立ち回りを演じた真相
差別主義者ではなかったブラック・タイガー
高橋さんによれば、選手の新幹線移動はあったものの、日本人であるタイガーや坂口が外国人選手と同じ新幹線に同乗することは絶対になく、またブラック・タイガー(マーク・ロコ)は温厚な性格で、間違っても差別用語を口に出すような人間ではなかったという。ちなみに移動中のブラックがマスクをかぶることはなく、外国人の列車移動は新幹線を含め、原則グリーン車だったというから、いま思えばいろいろ現実離れしたシーンに仕上がってしまったようだ。 「黒ブタ」や「黒んぼ」など、『列伝』における差別用語は、いたるところに登場している。これは、ある時期からコミックス版では特に断りもなく別の言葉に差し替えられていたが、それが実行されたのはおそらく80年代後半に巻き起こった『ちびくろサンボ』など一部書籍の絶版騒動のあたりではなかったかと思う。 僕は勝手に改変するのではなく、当時の時代状況を説明したうえで、そのままの形で掲載したほうが良いのではないかと思っていたが、小学館サイドからも特に意向を聞かれることはなかった。梶原先生も亡くなっていたので、おそらく版元の判断だったのだろう。 もちろん、いまから描く新作であれば差別用語の使用は回避すべきだと思うが、人権意識の有無とは別に、そうした用語がかつて使われていたという事実はあり、ただ単に差別用語を消滅させれば問題はないという考えは、作品全体の世界観にも影響を与えかねない。実際、あえて当時の言葉遣いを直さないで刊行している作品もあるのだから。 ブッチャーとは親しかった梶原先生だけに、何らかの形でブッチャーから黒人であるがゆえに受けてきた不当な扱いについて、聞かされていたのかもしれない。ただ、ブラック・タイガーが差別主義者であったかのように信じてしまった読者に対しては、僕の責任でもって、それを訂正しておきたいと思う。 倍賞美津子とアントニオ猪木夫妻は本当に襲われたのか? タイガー・ジェット・シンの「伊勢丹前襲撃事件」の真実 へ続く
原田 久仁信/ノンフィクション出版