暮らしながら未来先取り、実験住宅30年 大阪ガス社員と家族が入居
10年先の住まいのあり方を考えようと、大阪ガス(大阪市)が建設した実験集合住宅「NEXT21」(同市天王寺区)が今春、運用開始から30年となる。社員と家族が入居し、快適で持続可能な暮らしを模索するユニークな試み。記念のシンポジウムも予定され、担当者は「若い人と一緒に未来を考えたい」と話す。(共同通信=山下憲一) 大阪メトロ谷町六丁目駅から徒歩5分。地上6階、地下1階のNEXT21は、アンティークの化粧箱のような外観だ。中庭から各階の廊下やテラス、屋上へ続く野性的な植栽も実験の一環。大阪城公園など近隣から約20種の野鳥が飛来、一部は営巣し、夏の猛暑を招くヒートアイランド現象の低減効果も確認された。 1993年に完成、社内で募集した16世帯が翌年4月に入居した。ゆとりある暮らし、環境との共生などを掲げ、省エネが進む行動様式の検討や燃料電池による発電・給湯システムの開発にデータを提供。現在も約40人が脱炭素や災害対応を意識した生活を実践する。
「住宅関連企業の皆さんと共に実験を進め、関係が深まる営業面の意義も大きい」と、同社エナジーソリューション事業部の志波徹さん。省庁や自治体の視察も増え、企業価値の向上も感じる。 近未来の住宅像が、現代人の生活環境を映し出している点も興味深い。 「つながる家」「余白に棲む家」などコンセプトに応じ変更可能な各住戸の間取りで目立つのが「土間」。屋内外を緩やかにつなぎ、近隣の交流を促す場を設けた背景に、地域の共同体が消失した都市の弱点が浮かぶ。 「私と妻がいるメインの部分と80代のお母さんの居室を仕切る土間が絶妙です」とは「プラスワンの家」に住む監査部の横田英俊さん。「完全な同居とは違い、でも互いの気配は感じる距離感がいい」。少子高齢時代に1.5世帯の暮らしを提案する設計に感心する。 30周年の今年は秋に東京と大阪でシンポを開催し、新たな活用法のアイデア募集も予定。「次代を担う学生らと取り組みの価値を共有したい」と志波さんは期待する。