市川團子 20歳で主演を務めるスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』への思い「役と近い年齢の自分だからできる表現を」
◆祖父の力に改めて圧倒されて 祖父が『ヤマトタケル』を創ったのは、46歳の時です。哲学者である梅原猛先生の書き下ろし作品で、ものすごい熱量で取り組んだのだと思います。 自分がヤマトタケル役を演じさせていただき、この作品のすごさを実感しました。朝倉摂先生の舞台装置や毛利臣男(とみお)先生デザインの衣裳など、今も初演時のものを踏襲していますが、40年近く経っても、古びるどころかますます新鮮に感じるのです。 音楽には、通常の歌舞伎の下座音楽に使われる三味線などのほか、モンゴルの馬頭琴(ばとうきん)や韓国の伽耶琴(カヤグム)なども取り入れられています。 録音した音楽を、まるで生演奏のようにピタッと動きに合わせるためには、緻密な計算が必要です。それを作り上げるだけでも、本当に大変だったと思います。 そして、物語はいい意味でわかりやすいというか――父と息子の確執、兄弟の葛藤、恋人との情、いかに生きるかなど、人生のすべてが込められている。また、熊襲(くまそ)や蝦夷(えぞ)との戦いを通して、侵略する側とされる側の思いも描かれており、現代に通じる普遍的な作品だと思います。 演出もドラマチックで、祖父のモットーだった3つのS――ストーリー、スペクタクル、スピードがまさに具現化されている。初めて歌舞伎を見る方も、すーっと入っていけるのではないでしょうか。
ゼロからこれだけの作品を創り出した祖父の力に、改めて圧倒されました。お稽古に入る前は、完璧に祖父の真似をすることがよいお舞台に繋がると思っていました。 でも先輩方から、「今の團子ならではのヤマトタケルを頑張るのが大事だと思う」と言っていただきました。僕は基礎がないので、皆さまに教えていただきながら、自分なりのヤマトタケルを演じようと思いました。 僕は20歳で、ヤマトタケルの等身大に近い年齢なので、そのことがこのお役に何かよい意味を付与できたらよいな、と。ですから今は、存分に動けるだけ動こうと思います。 感情面でも、若者らしさを表現したいと考えました。ヤマトタケルは父である帝(すめらみこと)から疎まれ、激動の人生を送ります。その時々でタケルは何を感じ、どう考えていたのか。20歳なりの解釈で演じてみようと思い、考えたことを台本に書き込みながら、役を掘り下げていきました。 後から祖父が後援会の会報誌にヤマトタケルの解釈について書いた文章を見て、僕と似た解釈があると、「あぁ、同じことを考えていた」と嬉しく感じました。 2月、3月と東京でのお舞台を演じさせていただいているうちに「このタイミングでは、まだこの感情は芽生えない」「ここでこう感情を表現すると、後にうまく続かない」と気づき、解釈が変わることがありました。 この後、名古屋、大阪、博多でも公演がありますが、タケルのお役がどれだけ成長できるか、挑戦し続けるつもりです。 (構成=篠藤ゆり、撮影=岡本隆史)
市川團子