81年ぶりの大記録に挑む中日・髙橋宏斗のロマン【白球つれづれ】
◆ 白球つれづれ2024・第26回 プロ野球は”オールスター・ブレーク”に突入、今月26日から後半戦に突入する。 前半戦を振り返るとセ・リーグは首位の巨人から4位の阪神までが3.5ゲーム差の大混戦。パ・リーグはソフトバンクが独走。2位のロッテに10ゲーム差をつけてペナント奪回に向けてひた走る。もっともこちらも2位から5位のオリックスまでは5.5差。クライマックスシリーズへ向けてまだまだ予断は許さない。 今季の大きな特徴の一つに記録的な“投高打低”現象も挙げられる。 ちなみに昨年の同時期にあたる7月末のチーム成績と今季(7月22日現在)を比較してみると一目瞭然だ。 チーム打率はセ・リーグで2割3分台のチームが昨年は阪神、ヤクルトの2チームに対して今季は2割2分台も含めて5チームに増えている。パ・リーグではチーム打率こそ改善傾向にあるが、チーム本塁打で見ると前年はこの時期で全チームが60本塁打以上を記録していたのに対して、今季は日本ハムの57本が最高で、オリックスと西武に至っては30本台の長打力不足を露呈している。セでも本塁打数は激減している。 この“投高打低”現象の要因にはいくつかの説があり、「飛ばないボール」を使用している?なども挙げられている。しかし、最も説得力があるのはトレーニング器具のハイテク化により、投手はトラックマンなどの機器を使うことで球速を上げ、回転数まで改善している。加えてチームごとに対打者への配球パターンなども数値化されている。打者側からの研究も進んでいるが、投手に対して「受け身」の立場だから現時点での投手優位は間違いない。 そんな時代の申し子がいる。中日の21歳、髙橋宏斗投手である。 160キロに迫ろうかとする快速球に、キレのいいスプリットやスライダーを駆使して打者を完璧に封じる。 今月19日の巨人戦では8回を4安打12奪三振の快投で7勝目(1敗)。相手エース・戸郷翔征に投げ勝っている。しかも6月28日の対DeNA戦6回から続く無失点投球は26回に伸びた。防御率0.52は規定投球回数に4足りないが、並みいるエースたちを抑えての「隠れ1位」だ。 20年のドラフト1位。中京大中京高時代から全国区の評価を受けていたが、慶応大進学を前提に動いていたため、手を引く球団が多く地元のドラゴンズが一本釣りに成功した。 その才能はWBCの栗山ジャパンから3年目の20歳で指名を受けるほど。今では佐々木朗希(ロッテ)や山下舜平太(オリックス)らと共に将来のメジャー候補生として熱視線を送られている。これまでは佐々木らの影に隠れた存在だったが、今季の活躍を見る限りではその評価も逆転している。今後はメジャー関係者の「名古屋詣で」もこれまで以上に激しくなっていくだろう。 ◆ プロ野球の最高防御率への期待 この髙橋宏の防御率(0.52)は後半戦に向けて大きな興味を生んでいる。 プロ野球の最高防御率は1943年に巨人のエースだった藤本英雄が記録した0.73である。2位以降も景浦将(0.79、阪神)沢村栄治(0.81、巨人)と伝説の名投手が並ぶ。 防御率0点台の投手は過去に11人いるが、そのうち10人は1930年から40年代の投手で、最も新しいのが1970年の阪神・村山実(0.98)だから、これでも54年前。いかにとてつもない記録かがわかるだろう。 ちなみに髙橋宏の場合は、規定投球回の143イニングまであと、57イニング。この残りイニングを自責点10以下で抑えれば、シーズン防御率は0.94となる計算だ。 中日と言えば今季も6月に10戦連続2得点以下という不名誉な記録を作ったほどの貧打線。もっとも投手の立場から見れば1点もやれないと言う緊張感は常に併せ持つ。それが上手く作用すれば、今後の好投も夢ではない。 例年なら「打高投低」となる炎熱の夏。髙橋にとってもこの8、9月をどんな数字で乗り切れるかが大きなポイントとなる。 80年越しのロマンを求めて。竜のプリンスに夏休みはない。 文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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