自動運転が描く未来の地域医療 湘南アイパーク、大学・商社と共同研究 街づくりの一翼に 神奈川発 医療革命(上)
武田薬品工業の一つの研究所からオープンイノベーション化し、運営主体も変わった研究開発拠点「湘南ヘルスイノベーションパーク」(湘南アイパーク)は、地球規模のグローバルな視野と地域に根差したローカルな視点を併せ持った「グローカル」な拠点でもある。この拠点から医療改革を生み出そうという取り組みと、日本のヘルスケアの可能性を探る。 【写真】昨年実施された「未来の救急救命」の実証実験の様子 上空を飛行するドローン(小型無人機)からの情報を基に救急車が駆け付ける。救急隊員はカメラ機能を備えた眼鏡型機器「スマートグラス」を着用しており、その映像を共有している病院内の医師が患者対応の指示を送った。 神奈川県藤沢市と鎌倉市にまたがる湘南アイパークが昨年12月、地域公開イベントで実施した「未来の救急救命」の実証実験の一コマだ。救急車と病院がリアルタイムでデータを共有。病院への患者受け入れを円滑にするための実験で、実施した3日間で地域住民ら約900人が参加した。 ■車内で血圧、体温計測 湘南アイパークは「革新的なアイデアの社会実装」を目標に掲げ、ライフサイエンスのみならず、医療や健康に関するヘルスケア分野でもイノベーションに取り組む。その一環として、次世代交通サービス「MaaS(マース)」という新しい概念を横浜国立大や三菱商事と共同で研究している。救急救命の実証実験もこの一つで、これまでに遠隔操作やシステムによって車両を運行する「自動運転」の活用に力を注いできた。 令和3、4年には敷地内で自動運転車で通院することをシミュレーション。診療前に必要な手続きを行うための装備がある自動運転車が用意され、病院に向かう想定の車内で血圧や体温などを計測して送信し、移動中に通院の受け付けを済ませる流れを確認した。 こうした自動運転車を使った仕組みを導入できれば、郊外の高齢者らは自ら運転することなく通院できるほか、病院内の待ち時間解消で診療の効率化が図れる。運転手不足などの社会課題の解決にもつながる。 湘南アイパークを運営する「アイパークインスティチュート」に出資する三菱商事の国内都市開発部の曽我新吾総括マネージャーは「自動運転という移動の手段と医療を掛け算して、来るべき(医療現場の)世界観を伝えたかった」と説明する。