放送翌日かかってきた横槍電話…『Nスぺ』登場の元テレ東Pが語るテレビ局の現場で顕著化するある傾向
いま、テレビ局はSNSやネットでのネガティブな評価をとても気にしている。TBSで’24年1月クールに放送されたドラマ『不適切にもほどがある!』には、放送中にずっとSNSをチェックして一喜一憂するPが出てきたが、あれは現実のありさまだ。 コンプライアンスの機運が高まるなか、悪い評判で会社の信用やブランド価値が低下し、レピュテーションリスクが表面化するのを恐れているのである。その結果、やたら現場や下の者への干渉が増えている。 しかし、レピュテーションリスクを気にするあまり、今回のように「人権DD」に引っかかるようなことをしているようでは、元も子もないのではないか。 ひと昔前は、局の経営陣も現場の意向を尊重し、「お互いのテリトリーを守る」という暗黙のルールを守っていた。だが、いまは自分の保身を第一に優先する者ばかりだ。何か問題が起これば非難されるのは自分だと怯えている。責任を取る勇気もないからだ。突き詰めれば、現場やクリエイターから〝ほど遠い〟人間ばかりが多くなったのだ。 10月16日におこなわれたNHKの稲葉延雄会長による定例会見においても、その傾向が露見した。稲葉氏は「紅白の制作に向けて判断したわけではない」と弁明する一方で、「制作現場の判断で契約が可能になる」と述べた。この発言はいただけない。「現場が判断したら仕方がない」と、現場に責任を押しつけているように見えてしまうからだ。 ◆上からの意見は「以前に比べて多くなったと感じている」 前掲の11月5日付『東京新聞』の永田氏のコメントをよく解釈してみてほしい。永田氏は「ドキュメンタリー番組は現場の問題意識が優先され、上層部の指示で作られるものは原則ない」と述べている。 「原則」ということは、「例外がある」ということだ。もちろん、すべての番組にこと細かく指示が下されるわけではない。そんなことをやっていては時間も手間もかかり過ぎる。しかし、ドキュメンタリーで言えば『NHKスペシャル』や『クローズアップ現代』、ドラマでは「大河ドラマ」「朝ドラ」などは、「NHKの看板」を背負っているので「原則外」だ。 このことに関して内部の実状を確認すべく、『Nスぺ』を何本も手掛けた関係者に取材した。すると、番組に対する上からの意見は「以前に比べて多くなったと感じている」と答えた。そしてそれらの意見には、ある特徴があった。それは何か。 強制的な「注文」や「指示」は、ほとんど見当たらないということだ。責任を持って指示をできる程度までは至らず、「思いつき」を伝えてくる。 その結果、現場はどうなるか。いろいろな人がさまざまな観点から好き勝手に意見を言ってくるため、現場は混乱する。まさに前述した、編集直しの指示が毎回変わり、編集構成が堂々巡りをして作業が遅々として進まないという事例を裏づけるような証言ではないだろうか。 以上の考察から、おそらく『おむすび』の現場にも上層部からいろいろな意見が来ているであろうことは想像に難くない。 番組は、内容面においてさまざまなサイトや記事で批判の対象となっている。実績面でも、このままでは朝ドラ史上ワースト視聴率の記録も生まれかねない状況だ。 当然、〝意見は言うが強制はしないし、責任も取らない〟トップダウンが矢のように飛んできていることだろう。 そうなると現場は混乱し、惑わされる。『おむすび』は社会派ドラマなのか、家族モノのヒューマンドラマなのか、はたまた女性立身出世モノなのか、どう見ていいいのかわからないという雑然とした内容になってしまっているのも、上から下へ物申すことが多くなっているテレビ業界の傾向が影響しているのである。 後編では、②の「タレント事務所の力が強まった」という傾向について吟味してゆきたい。 文:田淵俊彦
FRIDAYデジタル