フィリピン正副大統領、対立激化が「殺し屋依頼」に発展 対米中外交に影響も
フィリピンでマルコス大統領とサラ・ドゥテルテ副大統領の対立が深刻化している。溝が深まる中、サラ氏はマルコス氏を狙う殺し屋を雇ったと発言。マルコス氏は「私は彼女らと戦う」と激しく反発した。マルコス政権が南シナ海での中国の威圧に対抗すべく対米接近を模索する一方、サラ氏の父、ドゥテルテ前大統領は中国に近い。正副大統領の政争はインド太平洋地域の要衝、フィリピンの外交政策に影響を与える可能性がある。 「暗殺」発言は、サラ氏の23日の記者会見で飛び出した。自分が殺された際、「ある人物」に大統領夫妻とロムアルデス下院議長を殺害するよう依頼したと言及。「彼らを殺すまでやめるなと伝えた」と述べた。 発言の真偽は不明だが、マルコス氏は25日の声明で「数日前に聞いた発言は気がかりだ」とし、「犯罪計画を見逃すわけにはいかない」と反発した。大統領の警備体制が強化され、司法省高官は暗殺を首謀したとしてサラ氏を取り調べる方針を明らかにした。 マルコス氏とサラ氏は2022年の正副大統領選で共闘し、圧倒的な支持を得て共に当選した。だが、改憲問題や副大統領府の予算削減などを巡って両氏は決裂。マルコス氏は、ドゥテルテ前政権が展開した容疑者の即時射殺を辞さない麻薬撲滅戦争に対する国際刑事裁判所(ICC)の捜査に協力する姿勢を示しており、サラ氏側は不満を募らせている。 今年7月にサラ氏は兼務していた教育相を辞任。10月にはマルコス氏を「首を切り落としたい」「ペテン師」とこき下ろし、両者の相克は決定的なものとなっていた。サラ氏は次期大統領の座を見据え、現職批判を強めているもようだ。サラ氏の父であるドゥテルテ氏も、マルコス氏を批判する発言をしている。 マルコス氏は南シナ海での中国の覇権的な海洋進出を受け、日米との連携で対応する姿勢を見せている。一方、ドゥテルテ氏は大統領任期中、「親中反米」の立場で、南シナ海での中国の主権主張を退ける判断を示した16年の仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)裁定を「紙くず」と無視した中国に接近した。 フィリピンでは来年5月に現職大統領に対する評価の場でもある国政・地方選挙(中間選挙)が行われる。政争の末にドゥテルテ派が伸長すれば、不安定な政権運営をマルコス氏が強いられることは必至だ。(石川有紀)