売り手有利&早期化が進む就活戦線――“新卒採用の課題”は何か?
● ますます重要になる“中長期視点での採用戦略” 就活・採用市場の近年の特徴としては、「オンライン」の定着も挙げられる。特に企業にとっては、時間やコスト、労力の軽減に大きなメリットがある。ただ、オンライン化が進んだからといって会社説明会への学生の参加者数は伸びていない。オンラインであれば母集団が増えるわけでもない。今後、企業は、学生との接触のタイミングを早めるよりも、“接触の中身”が勝負の分かれ目になるだろう。 高村 例えば、インターンシップ類においては、半日と1日、あるいは、文系と理系向けを分けたり、業務体験ができるだけでなく、職種別に先輩社員と話ができるようにしたりするなど、プログラムをより充実させる取り組みが必要だと思います。学生の関心をどれだけ引きつけられるか――間口を広げ、接触の中身も濃くして、学生とのリレーションをしっかりとることで、本採用のエントリーにつなげることが大切です。 内定出しが早まったうえ、10月の内定式の後、翌年4月の入社まで半年ほど期間が空くことを考えると、学生との継続的なリレーションはますます重要になる。 政府の調査によれば、新卒学生の就職後3年以内の離職率が2024年には34.9%と、前年度比で2.6ポイント上昇している。過去34%台に乗ったのは就職氷河期といわれた2000年代前半から半ばにかけて以来のことだ。ただ、過去のデータを見ると離職率と就職率は相反する動きをしている。これは、厳しい就職状況では、希望する内定が得られなかった層が多く、そのために離職率が高まるのではないかといった分析ができる。それに対し、近年は就職率がさほど下がっていない。むしろ、今回見てきたような学生の意識変化が離職率に影響していく可能性も考えられる。 最後に、これから就活に臨む学生と採用に携わる企業の人事担当者――双方に向けてのアドバイスを高村さんに聞いた。 高村 学生にリクエストしたいのは、就活の早期化が進むなかで、もう少し多くの企業を見てもいいのではないか?ということです。就活はたくさんの内定を得ることが目的ではありません。入社する企業を選ぶにあたって、就活の過程で、「自分にはどの企業が最も向いているのか」の判断材料を幅広く集めてほしいです。それが、「配属ガチャ」や「ゆるブラック」などの不安を避けることにつながります。 企業側にお願いしたいのは、会社説明会やインターンシップ類、さらに面接などを通して、学生の判断材料となる情報をどんどん提供することです。それが、採用におけるミスマッチをなくし、自社に合わない学生に内定を出して辞退されるリスクを下げることにつながります。 内定を出した後のフォローも大切です。学生は複数社の内定で迷っている段階では、「放っておいてほしい」という気持ちがあり、「内定承諾」を急かすと「オワハラ」と受け止められかねません。一方で、1社に決めた後は、「配属先はどうなるのだろう?」「入社までに何をすればいいのだろう?」といったことを気にするので、それに応える姿勢が不可欠になります。 学生への情報の出し方や接触の仕方は、就活の進捗段階と心理状況に応じて調整しなければならないので、とても難しいですが、きめ細かく、丁寧に対応していけば効果的です。 今後も採用難は続きます。採用は事業継続のためだけではなく、企業の中長期的な成長の鍵を握っていて、最重要の経営戦略と言えます。人事部門、採用担当部門は経営層への働きかけやコミュニケーションに、よりいっそう、力を入れていく必要があるでしょう。
古井一匡