毎日、自分を「いい匂い」にする 『上機嫌美容』のすすめ AGフレンズ 松本千登世さん
【&w連載】AGフレンズ
Aging Gracefully(AG)プロジェクトが2024年度「AGフレンズ」の1人としてお迎えした、美容エディター・ライターの松本千登世さん。昨年度に続き、美容の専門家からのメッセージをお伝えします。 【画像】もっと写真を見る(3枚) ここ数年、若者たちを中心に「ニッチフレグランス」が人気を博しています。 ニッチ(niche)は、もともと英語で「奥まったところ、へこんだ隙間」の意で、ニッチフレグランスとは大手の有名なメゾンがつくるそれでなく、小さなメゾンが香料からボトルまでこだわりを持って形にした個性的なフレグランスのこと。芸術性やストーリー性があって、それまでは、どちらかというと、「香り上級者のもの」とされていたカテゴリーでした。 背景にあるのは、「人と違う」「自分だけの」香りをまといたいという意識の強まり。香りに対する価値観、もっと言えば、その向こう側にある生き方の価値観が大きく変わったのだと、思い知らされます。 そんな世の中の流れに対して、AG世代の中にはまだ、「香りは難しい」という認識をぬぐい切れない人も多いのではないでしょうか。 誰もがこれとわかるハイブランドの香水に人気が集中した時代。その反動のように「無香料がいい」と香りそのものが敬遠されたり否定されたりした時代。まわりに褒められたり、異性に愛されたりするための「好感度フレグランス」に注目が集まった時代……。 さまざまな時代を経験したものの、それでも、日本ならではの習慣からか気候からか、はたまた文化からなのか、香りはどこか自分のもの、日常のものになり得なかった世代なのではないか、と思うのです。私自身、編集者やライターとして香りの企画を手掛けるも、意識を変えるまでの手応えが得られず、歯がゆさを感じていたのも正直なところだし、振り返ると、自分の意識もここまで解き放たれてはいなかった気がしています。 ところが、良くも悪くも、コロナ禍が意識を変えるきっかけになりました。 自分に目が向いたり、手をかけたりする時間ができたこと、香りによって気持ちが変わると知ったこと。そして、個性や多様性を重んじる時代の空気も相まって、知らぬ間にすっかり意識が変わっていました。 目に見えるぜいたくから、目に見えないぜいたくへ。まわりの好感度から、自分の満足度へ。もっと自由に、もっと素直に、自分だけの「香り」に出合いたい。軽やかで柔軟な価値観を持つ若者から、そのムードが広がっている、その現れとしてのニッチフレグランスブームに違いないのです。 私たち大人も、ようやく香りを自分の一部にするときがやってきたのだと思います。 ニッチフレグランスもあり、もちろん、大手メゾンのフレグランスもあり。選ぶ視点はシンプルに、「自分をいい匂いにする」。誰と会うとかどこに行くとか何を着るとか考えすぎることなく、世間の常識から一度解き放たれて、自分の「好き」とか「心地いい」に正直に。 すると、呼吸をするたび、気持ちが和らいだり、気分が高まったり。自分だけの香りが、背筋を伸ばしたり、口角を上げたりする「効果」があることに気づかされるはずです。 ■著者プロフィール 松本 千登世(まつもと ちとせ)さん 美容エディター・ライター。航空会社勤務、広告代理店勤務、出版社勤務を経てフリーランスに。雑誌や単行本などで美容や人物インタビューを中心に活動。著書に『「ファンデーション」より「口紅」を先に塗ると誰でも美人になれる 「いい加減」美容のすすめ』(講談社)、『いつも綺麗、じゃなくていい。50歳からの美人の「空気」のまといかた』(PHP研究所)、『顔は言葉でできている!』(講談社)など。女性誌『美的GRAND』(小学館)で「このコスメが、すごい!」、同『éclat』(集英社)で「大人美が目覚めるとき」を連載中。2024年3月に絵本『ピンクのカラス』(BOOK212)を出版。
朝日新聞社